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折鶴の詩(うた)

crains


悲劇はある夜突然訪れた。

彼は、海を知り尽くしていた。愛していた。

理不尽な海は、彼女を愛した男をその胸に抱き寄せた。

抗うことの出来ない強い強い抱擁。


泡・・・。


彼をこの地で抱きしめていた母は、その年老いた体を小さく震わせて、

周りに集まる慰めの言葉を肌で受け止めていた。

小さな体がまた一回りしぼんで見える。


私は、言葉が話せなかった。

それでも、気持ちを伝えたかった。

何を支えに出来るのだろうか。

思いついたたった一つのこと。

あの時、自分の病が治ることを願い続けて鶴を折った少女。

だから、私も、彼の母の心が少しでも休まる事を願って、

小さな鶴たちに祈りを吹き込んだ。


海に抱かれた息子を思いながら、

母は彩られた鶴を見つめる。




A Girl in the Kitchen

agirlinthekitchen

彼女は、家に上がるなり、私の横を素通りして、キッチンへ直行した。私達が幾晩もの時間を過ごした場所。いつもの席に座って、すっと外を見る。綺麗な横顔。透き通るような美しさは影を潜めていた。あの日、晴れやかに家を出て行った彼女とは明らかに違っていた。よどみ。それを私は始めて彼女から感じた。


「少し、ここに一人でいてもいい?」


そういったまま、彼女は私に背を向けた。私は、何も言わずにキッチンを後にした。その昔、私達の笑い声、野菜を切る軽やかな包丁の音、カトラリーがふれあう不協和音、スパイスの匂いに包まれた幸せの場所。何かあったのだろう。話をしたいけれど、今は、そっとしておこう。キッチンの記憶が彼女を満たすまで。