https://panasonic.co.jp/es/museum/exhibition/17/170408/index.html

2017年4月7日、パナソニック汐留ミュージアムにて開催中の「日本、家の列島 ―フランス人建築家が驚くニッポンの住宅デザイン―」展の内覧会に参加させていただきましたのでレポートします。なお、掲載した会場内写真は特別に許可を得て撮影したものです。

 

本展のタイトルは「日本、家の列島 ―フランス人建築家が驚くニッポンの住宅デザイン―」。正直建築家でもなくありふれた美術好きといった程度の私にとってあまり食指が動かないなぁという感じだったんです。(本展の前の企画展マティスとルオー展 ―手紙が明かす二人の秘密―」は鑑賞しましたよ)

ところが、本展を企画した4人のフランス人、写真家のジェレミ・ステラさん、建築家のヴェロニック・ウルスさんとファビアン・モデュイさん、日本在住30年のマニュエル・タルディッツさんのギャラリートークを聞いて俄然面白くなったんですね。タルディッツさんは日本語がペラペラでわかりやすくお話ししていただきました。

左からマニュエル・タルディッツさん、ファビアン・モデュイさん、館長(中央)、ヴェロニック・ウルスさん、ジェレミ・ステラさん

 

本展覧会はこのフランス人の皆さんの情熱で実現され、フランス・スイス・ベルギー・オランダの各都市を巡回して好評を博して今回日本で開催に至ったとのこと。注目すべきは彼らが取り上げているのは日本の伝統的で有名な公共建築物、例えば法隆寺とか姫路城とかではなく、名の知れた建築家によるもの、例えば辰野金吾の東京駅とか黒川紀章の国立新美術館でもなく、建築家が設計し実際に建てられそこに人が住む個人住宅なのです。

そしてこの個人住宅に彼らが感心を示したことによって現代日本における「住む」ことにおける大事な何かを改めて認識することができたのです。

まず本展のメイン第3章「今の家」について。この章では21世紀に建てられた現代の個人住宅が20紹介されているのですが、その概要についての解説を本展図録から引用します。(本展図録P91)

 

「今の家」では2l世紀に入ってから竣エした最新の住宅建築20作品をとりあげる。実際、ここで紹介する建築家たちは平均年齢49歳、施主も働き盛りで半数以上がこれらの家で子育て中であり、まさに今を生きる建築である。
これら20作品を描写する写真はいわゆる正統派の建筆写真とは趣を異にする。写りこんだ電線は消去されずそのままで、説明的で無機質な外観写真もない。むしろ庭や室内で無心に遊ぶ子どもたちや、居間で一服の茶を楽しむ人々のくつろいだ表情が、主役の建築に引けを取らない。これらの写真は2013年、ヨーロッパ巡回展に先立ち4人のフランス人たちがそれぞれの家を訪ねた際、ジェレミ・ステラが撮影したものである。
加えて、日本の住宅建築の本質、伝統的な住まいと暮らしの感性がどのように継承され、建築家がそこでどのような役割を果たしているかを明らかにするために彼らが行った建築家と住人へのインタビューが、重要な位置を占めている。
現代日本における個人住宅の数の多さ、都市特有の厳しい立地条件、耐用年数の短さは日本の経済や税制などの固有の状況に由来するもので、ヨーロッパの観客にとってはなかなかわかりづらいであろう。一方、個室中心の西洋に比べて、日本の住宅は私的領域が厳密ではないため,かえって間取りは自由で創造的な点が高く評価される。写真と映像から読みとれる住まいに対する愛着への共感とあいまって、ヨーロッパの観客からはこれら現代住宅に多
くの賞賛が寄せられた。
住宅のかたちは時代とともに変化したにせよ,インタビューからは日本人の住まいのかたちが育む感性や昔からの生沼習慣が、日本の文化として変わることなく人々に受け継がれていることが再認識される。4人の企画者たちはそのことを明らかにするために、インタビューという事例的社会調査の方法を有効に用いた。社会学や文化人類学、経済学といつた領域でしばしばとられるアプローチである。

 

会場の写真をいくつか掲載します。

 

 

「O邸」。建築家は中山英之さん。建築面積42.9㎡。居住者数大人2人、子供3人。依頼主は大学教授のご主人と主婦の奥さん。

隣が神社ということもあるのか、お神輿を思わせる形状とモダンな大きなガラス窓が特徴ながら、決してデザインありきではなく、建築主の「住む」という希望をかなえるものとなっているんですね。

Q:日本文化はしばしば自然や季節との調和を重んじてきました。この家ではそうした関係性をどのように体験できますか?

A:神社とそこにある桜、窓の前を通っていく人びと、季節の移り変わり、この界隈での散歩などです。寒いときには、窓ガラスに結露が起こります。すると、子どもたちはその機会を逃さず、窓ガラスに絵を描くのです。春には、庭にバラの花が咲きますし、とりわけ隣の神社の桜に花が咲きます。夏は一階のホールで寝ます。というのも、上の階はとても暑いからです。嫌いなエアコンは置かず、窓を開けて風を通します。秋の到来は葉の色が告げてくれます。私たちは季節とともに生きているのです。外が寒いときは、家のなかも寒いですが、暑いときは、反対に家は涼しいです。

 

 

「大きなすきまのある生活」。建築家は「オンデザインパートナーズ」の西田司さんと萬玉直子さん。建築面積は75㎡。大人2人、猫1匹居住。職業は二人ともエンジニア。

間口が狭い長方形の土地に3階建てにして床面積を確保しつつ、何と真ん中には路地のような隙間がある建物。

「この家は東京の下町である根津の形態に着想を得ています。・・・根津には『路地』がたくさんあって、それが家同士を分けているのです。それと類似したかたちをこの区画の中で再現してみたいと考えました。」

 

20の家すべて見て思ったのは、個人の住宅建築において建築家に頼むのは富裕層だと思い込んでましたが、普通の人でも狭い土地でも限りある資金でも建築家に頼めるんだということ、そしてそのようにして住む人の意思を実現した家には住んでいる人の活き活きとしたくらしが感じられるのです。

不思議なことに依頼主も建築家も全く異なるのにある共通した要素が見られるのです。

ひとつは個性的でモダンな建築物を志向した建物でもみんな履物を脱いで上がるということです。当たり前と言われるかもしれませんが、これこそ日本的なるものがしっかりとあることの証左のように思えます。

さらに家の中に個室のようなものがあまりないことも共通です。あっても可動式の仕切りだったりして、空間は極めてフレキシブルに多用途にみんなで使われます。狭い土地を有効に使う工夫かもしれませんが、家の中のどこにいても家族の息遣いがわかるような個に分断されていない住まいという感じがします。

それは外に向かっても開かれていて、外を遮断するのではなく境界をあいまいなままにしてあることで、人も自然も内外を行き来できるような住まいとなっているのですね。

これもまた徹底した個人主義で作られた西洋の住宅との対比でくっきり浮かび上がる日本的なるものと思えます。

本展では20の家にくらす人が登場する動画が放映されているので、ぜひ見てください。人と自然に開かれその交流によって澱みがない生活ってものがもたらす豊かさや幸せっていうものを実感できるはずです。

それは、地域共同体や学校や家族といったものに形の上では帰属しつつもそこに自分を委ねることもままならず傷つかないような距離を保つことに神経をすり減らす一方で、個室に閉じこもりネットのようなものの空間においてTo Beなるキャラになってふるまい「いいね」を得ることで自分の存在意義を確認しているっていうくらし方を見直すヒントかもしれません。

 

その他の章も簡単に紹介しておきます。

第1章は「昨日の家」。西洋の建築に学びつつ日本的な建築として展開してきた20世紀の代表作14点を写真パネルや模型で紹介しています。前川國男さんとか伊東豊雄さんとか有名建築家設計の個人住宅なのですが、やはり豪邸でもあり作品でもあるって感じですね。

第2章は「東京の家」。ジェレミ・ステラさんが撮影した「東京の家」シリーズから36点を展示。外観としてユニークで気になる東京の家を概観できます。

 

坂口恭平さんのドローイング作品もあります。

坂口恭平さんは地価の高い都会では家を持てるひとと 持てないひとの不公平があることに疑問を感じ、路上生活者の家にヒントを得て、ローンも家賃もゼロで可動式、資金最小限の「モバイルハウス」を制作したそうです。ここでは都市のイメージを自身の頭のなかに3次元的に構築し、それを元に緻密に描いた作品を見ることができます。坂口さんの都市を想像力を働かせて歩いてみるのもおもしろいですよ。

 

 

【開催概要】

開館期間 2017年4月8日(土)~6月25日(日)
開館時間 午前10時より午後6時まで(ご入館は午後5時30分まで)
休館日   水曜日(ただし5月3日は開館)
入館料   一般:800円、65歳以上:700円、大学生:600円、中・高校生:200円

        小学生以下無料 
        20名以上の団体は100円割引。
        障がい者手帳をご提示の方、および付添者1名まで無料。
        5月18日(木)国際博物館の日は、全ての方が無料。