https://www.edo-tokyo-museum.or.jp/s-exhibition/special/10315/%E6%B1%9F%E6%88%B8%E3%81%A8%E5%8C%97%E4%BA%AC%EF%BC%8D18%E4%B8%96%E7%B4%80%E3%81%AE%E9%83%BD%E5%B8%82%E3%81%A8%E6%9A%AE%E3%82%89%E3%81%97%EF%BC%8D-2/

 

江戸東京博物館で開催中の「江戸と北京-18世紀の都市と暮らし-」(~4/9)の「ブロガー特別内覧会」に参加させていただきましたレポートします。

なお、会場内の写真は博物館より特別に許可を得て撮影したものです。

 

本展は「18世紀を中心に、江戸と北京のなりたちや生活、文化を展観し比較します。これまで清朝の芸術や宮廷文化に関する展覧会は数多くありましたが、北京の都市生活を江戸と比較する企画は、今回が初めてです。展示を通じ両都市の共通性と差異を明らかにすることによって、友好と相互理解を深める契機にいたします」(本展公式サイトより)というものですが、見どころは「絵巻」。

「江戸・日本橋の賑わいを描いた「熈代勝覧」と、乾隆帝80歳の式典に沸く北京の風景を描く「乾隆八旬万寿慶典図巻」、そして康熙帝60歳の式典を描いた「万寿盛典」を出陳し、同時代の江戸と北京を一目で比較できる展示とします。さらに絵巻に描かれるような当時の看板や商売の道具なども合わせて展示して、当時の風景を立体的に展観します」(本展公式サイトより)

 

地下鉄三越前駅の地下コンコースで見かける「熈代勝覧」の複製。時間があるときには足を止めてしばし眺めていたりもしたのですが、実はその原画はドイツのベルリン国立アジア美術館に所蔵。しかもドイツで発見されたのが1999年(平成11)とまだ20年も経っていないんですね。日本での初公開は2003年(平成15)の「大江戸八百八町展」にて、今回は三度目の里帰りで、日本での公開は11年振りとのことです。

地下鉄三越前コンコースでの複製展示

 

もう少し熈代勝覧のことをおさえておきます。

・文化2年(1805年)頃の江戸日本橋から今川橋までの大通り(約700m)を東側から俯瞰、当時の江戸町人文化を克明に描いた作品(作者不明)。
・「熈代勝覧」とは、「熈(かがや)ける御代の勝(すぐ)れたる景観」という意味で、本絵巻には「熈代勝覧 天」と記載されており、「天地人」の全三巻の可能性がありますが、他の巻は現在所在不明。
・題字は当時著名な書家であった佐野東洲のもので、絵巻には、沿道にある88軒の問屋や店に加え、行き交う1,671人、犬20匹、馬13頭、牛4頭、猿1匹、鷹2羽、ならびに屋号や商標が書かれた暖簾、看板、旗、などが克明に描かれています。


 

ということで本展展示風景を。

熈代勝覧は幅0.43m、長さは12.3mもあるのですが、全部見ることができます。しかも描かれた店の看板や行商人の背負い箱や装束などが正面に展示されているので右から左へと見ていくことで、当時の江戸の街並みの様子がよりリアルに感じられるようになっています。

 

この12.3mを鑑賞する際私は「『熈代勝覧』の日本橋」を予め読んで持参しました。実に楽しい時間を過ごさせていただきましたね。

 

 

その面白さを人にフォーカスしてピックアップしてみます。

頼まれもしないのに商家の店先を掃除する人。辻占の手相見の前に並ぶ粋な美人。読書裁縫三味線お茶お花常磐津など手習いに精を出す娘。勧請柄杓を出して喜捨をいただく巡礼する子供。机持参で寺子屋入門に行く親子。情報サービスもしていた按摩。下女と手代4人も引き連れて闊歩する流行の燈籠鬢の美人。阿呆陀羅経を読みながら踊っておひねりを強請る破戒僧。馬に乗った武士と家来一行。酔漢が通りの真ん中で吐いた反吐を嗅ぐ犬。粋な鳶。死亡率が高かったので大事にされた子供。50kgもの大量の青竹を天秤棒でバランスよく抱えて売り歩く竹竿売り。日掛の高利貸と彼を非難する武士。ちょっと艶っぽい尺八を吹く虚無僧。脚気で車椅子に乗って移動する男。イケメンの花売り。盥に籠ひとつで引っ越し中の独身女性。岡っ引きが来たら逃げ出せるよう見張りを立てて巧みな話芸でお上への批判や禁制の心中や仇討ち、殿中のスキャンダルなどが満載のかわら版を売る読売り。お花見に繰り出す楽しそうな武家の女子会。石見金山ねずみ取り売り。初鰹を売る一心太助のような魚屋。鬢盥を持参した新三ばりのイケメン髪結。外食好きの大店一家。天狗の面を背負った金比羅参り。家紋入りの布を掛けた結納品を運ぶ武家の使者たち。旅姿のおのぼりさん。三井越後屋を訪れるオシャレなご婦人。かかあ天下の夫婦。家財道具を積んだ大八車とともに引っ越し中の老夫婦。鷹匠。かまぼこを作っている職人。傘と雪駄を商う照り照降屋。近江屋ブランドで勝負する菓子の立売り。棒手振りの喧嘩、止に入る鳶、仲裁役の町役。昼間から大繁盛の酒の立売り。威勢のいい魚河岸の若衆。

 

「熈代勝覧」を眺めていると実はうらやましく思えてきたりするのです。それは一言で言えば多様性、雑多性の魅力。鎖国とか士農工商の身分制度とかの時代ではありましたが、何と人びとは生き生きとして幸せそうなのでしょう。老若男女、様々な職業、善も悪も、学んだり喧嘩したり、仕事したり物乞いしたり遊んだり、と。この絵巻には多様な人間が同じ空気を吸ってさまざまなことをやっていて、懐が深くて誰もが居場所がある社会を醸し出しているように思えます。今同じ日本橋を行き交う人びとを眺めたとき、外国人は増えたけど均質的になってしまった日本人の姿しか見えないのです。それはもしかしたら経済効率性という単一のモノサシで余分なものを削り取ってしまった結果かもしれません。

 

そして日本橋の景観も。

当時ここにあった魚河岸がものすごい数の人びとを集わせ、賑わいを作り出していてその日本橋からは富士山が見えたんですね。この素晴らしい景観も今や日本橋が高僧道路の陰に入ってしまっていてだいなしになってしまっています。

「熈代勝覧」はそれが描かれた200年前の姿を通して、私達が大切にしなければならなかったにもかかわらず捨ててしまったもの、失くしてしまったものを気づかせてくれます。

築地市場が移転したり東京オリンピックで更に変貌しようしている現代だからこそ、そしてトランプさんにょる民族差別や日本におけるヘイト意識の高まりなどいやな感じがますます高まっている現在だからこそ、「熈代勝覧」の意義は大きいと思うのです。

 

そして乾隆帝80歳の式典に沸く北京の風景を描く「乾隆八旬万寿慶典図巻」、康熙帝60歳の式典を描いた「万寿盛典」も合わせて見た時に見えてくるもの。

北京の人びともまた江戸と同様多様で雑多で活き活きとしているってこと。そして鎖国していたとはいえ、どうやら「熈代勝覧」は「万寿盛典」を参照していたと思われることから、やはり日本にとって中国はリスペクトする存在であったと思うのです。

それまでの数千年もの中国との時間を断ち切って、明治以降の100年あまりの時間における中国との関係性にことさら拘るのは馬鹿馬鹿しいと思えてきますね。だからこそ本展で似通っていてリスペクトできる中国の庶民を実感してみていただきたいのです。細かくキャプション読まなくたっていいんです。私達には中国文化をパッと理解できる文化的DNAがあるのですから。

 

【概要】

特別展「江戸と北京-18世紀の都市と暮らし-」
会期:2017年2月18日(土)〜4月9日(日)
※月曜日休館(ただし、3月20日(月・祝)は開館、翌21日(火)は休館)
会場:東京都江戸東京博物館 1階 特別展示室
住所:東京都墨田区横網1-4-1
観覧料:
特別展専用券 一般 1,400円(1,120円)、大学生・専門学校生 1,120円(900円)、中学生(都外)・高校生・65歳以上 700円(560円)、小学生・中学生(都内) 700円(560円)
特別展・常設展共通券 一般 1,600円(1,280円)、大学生・専門学校生 1,280円(1,020円)、中学生(都外)・高校生・65歳以上 800円(640円)、小学生・中学生(都内) なし
特別展前売券 一般 1,190円、大学生・専門学校生 910円、中学生(都外)・高校生・65歳以上 490円、小学生・中学生(都内) 490円
※( )内は20名以上の団体料金
※次の場合は観覧料が無料。未就学児童。身体障がい者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳の持参者と付添者(2名まで)。
※小学生と都内在住・在学の中学生は、常設展示室観覧料が無料のため、共通券の販売なし。