第11章

誰にも教わらなかった「辞め時」の考え方

 

経営を始めた頃、
誰も「辞め方」を教えてくれませんでした。

 

教えられたのは、
続け方。
伸ばし方。
耐え方。

 

「諦めるな」
「踏ん張れ」
「もう一段、頑張れ」

 

その言葉ばかりでした。

 

でも、長く経営をしていると、
必ず直面します。

 

これは、続けるべきなのか。
それとも、手放すべきなのか。

 

辞めることは、敗北だと思っていました。

 

逃げだと思っていました。

 

だから、限界まで抱え込みました。

 

体調を崩し、
判断が鈍り、
人に当たるようになっても。

 

ある時、尊敬する先輩経営者に聞きました。

 

「辞め時って、どうやって決めたんですか」

 

その人は、少し考えてから、こう言いました。

 

「“もう楽しくない”と感じた時かな」

 

意外な答えでした。

 

楽しい、という感覚は、軽く見られがちです。

 

でも経営において、
それは非常に重要な指標です。

 

楽しさが消えると、
視野が狭くなり、
判断は守りに入り、
組織は硬直します。

 

辞め時とは、数字だけで決まるものではありません。

 

赤字でも続ける意味がある事業もあれば、
黒字でも手放すべき仕事もあります。

 

基準は一つ。

 

それが、未来につながっているか。

 

私は「一度辞める」という選択も、
立派な経営判断だと思うようになりました。

 

撤退は、終わりではありません。

 

次の準備です。

 

続ける勇気と同じくらい、
辞める勇気も必要です。

 

そしてその判断を、
他人に委ねてはいけません。

 

誰にも教わらなかったからこそ、
自分で考えるしかない。

 

その孤独な決断こそが、
経営者である証なのだと思います。

 

この仕事部屋で、私は今日も自分に問いかけます。

 

「これは、私の未来に必要だろうか」

 

その問いに、正直でいること。

 

それが、後悔しない辞め時の唯一の条件です。