「永世女王」の戦い方 | 将棋大好き雁木師の新将棋文化創造研究所

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「将棋大好き雁木師の将棋本探究」をリニューアルしたブログです。
主に将棋に関する詩などの作品紹介と、自分の将棋の近況報告を行います。

読者の皆様こんばんは。本日発売の将棋世界3月号で、想定していなかったイラストが掲載されて少しだけビックリした雁木師でございます。

 

 

そのイラストがこちら。

 

私が描いた鳩やぐらさんの「納豆オムレツ」です。将棋世界さん、本当にありがとうございます。もちろん、他の方の作品もどれも素敵なものばかりです。ぜひ、将棋世界3月号をお買い上げいただき、「あつまれ!描く将」のコーナーをチェックしてください。

 

さて、今日の本題に入ります。今日は書籍のご紹介です。今回は「永世女王」の資格を持つ西山朋佳(にしやま・ともか)女流二冠が半年前に出された、ご自身の実戦から振り飛車の勝ち方を学んでいただきたいという思いを込めた書籍をご紹介します。

 

 

「マイナビ将棋BOOKS

実戦で学ぶ

振り飛車の

勝ち方

のご紹介です。

マイナビ出版からの発売です。ここで、西山女流二冠についてご紹介します。

西山女流二冠は2021年に奨励会を三段で退会後、女流棋士に転向。三段リーグ時代は次点を獲得された経験があります。奨励会時代から女流タイトル戦に参加され、2018年に初めてのタイトルである女王を獲得。以降マイナビ女子オープンでは防衛を重ね、昨年5連覇を達成されたことで棋戦史上初の「永世女王」の資格を得ました。そのほかのタイトルは白玲1期、女流王座2期、女流王将3期を獲得。合計で11期獲得されています。

また、今期は全女流棋士の中で対局数第1位(58局)、勝ち数第1位(41勝)を記録(どちらも2/2時点)。現在は、女流名人戦五番勝負に挑戦されてここまで2勝0敗で奪取に王手をかけています。第3局は2/5(日)に開催されます。

これ以外では、女流順位戦はA級に在籍されてここまで3勝1敗の成績。女流王位戦は挑戦者決定リーグの紅組で戦い、2勝0敗(2/2時点)の成績です。

 

お姉さまは囲碁棋士の西山静佳(にしやま・しずか)二段。関西棋院に所属されています。

 

 

では書籍の内容に入ります。本書は冒頭でも触れましたが、西山女流二冠の実戦から要所の局面を絞って振り飛車の勝ち方を学んでいくものです。掲載されている将棋は30局。中飛車、三間飛車、相振り飛車の各10局ずつで3章構成となっています。順番に見ていきます。

第1章 中飛車編

中飛車の将棋の解説です。10局のうち、図のような先手中飛車は9局、後手ゴキゲン中飛車1局の掲載となっています。先手中飛車の将棋では、後手の対抗策は急戦が4局。持久戦が5局です。急戦はオーソドックスな二枚銀急戦が2局、鳥刺しが1局、その他力戦が1局。持久戦は、左美濃が3局、穴熊が1局、箱入り娘が1局という内容です。締めくくりのゴキゲン中飛車は先手居飛車が超速で対抗した将棋が掲載されています。

 

第2章 三間飛車編

三間飛車の将棋の解説です。10局のうち、図のような後手三間飛車が6局、先手三間飛車が4局掲載されています。

後手三間飛車は図のような角道を止めたノーマル三間飛車が5局、角道を開けた角交換の将棋が1局です。このうちノーマル三間飛車に対する先手居飛車の対抗策は急戦が2局、持久戦が3局。急戦は舟囲い急戦とエルモ急戦が掲載。持久戦は3局すべて銀冠の将棋で、このうち1局は端玉銀冠の棋譜が掲載されています。また、角交換の将棋では先手の陣形は左美濃です。

一方、先手三間飛車はノーマル三間飛車が2局、石田流が2局掲載されています。ノーマル三間飛車は2局とも居飛車の対抗策は持久戦。銀冠と穴熊で対抗した将棋が1局ずつ掲載されています。石田流の将棋は居飛車は袖飛車+エルモ囲いで対抗した将棋と、銀冠穴熊で対抗した将棋が掲載されています。

 

第3章 相振り飛車編

相振り飛車の将棋の解説です。一口に相振り飛車と言いましても様々で、本書では図のような中飛車と三間飛車の相振り飛車の戦い、お互いが三間飛車に振った相三間飛車、クラシカルと呼ばれる向かい飛車と三間飛車の戦い、角交換四間飛車の出だしからの相振り飛車も掲載されています。

西山女流二冠側から見ると、三間飛車を持っての相振り飛車が6局。角交換四間飛車の出だしからの相振り飛車が4局掲載。三間飛車の相振り飛車では、相三間飛車が2局、図のような三間飛車と中飛車の戦いが1局、三間飛車と向かい飛車の戦いが3局掲載されています。角交換四間飛車の出だしからの相振り飛車では、四間飛車と三間飛車の戦いが2局。お互いが四間飛車に振った将棋が2局掲載。相四間飛車の将棋では「マネ将棋」と呼ばれる途中まで先後同型の将棋も掲載されています。

 

また、各章の締めくくりはコラムとして、鳥のこと、前述のお姉さまのこと、記録係について書かれています。

 

各章の構成は、共通でまずは10局の将棋のポイントを解説し、それが終わると10局すべての棋譜を掲載。そして締めくくりのコラムという順番です。

 

 

以上が書籍の構成です。ここからは実際に読んでみて感じた特徴を述べていきたいと思います。

西山将棋の特徴…西山女流二冠は、その指し回しから「豪腕」という異名がつけられています。今回棋譜を並べてみて思ったのは、全体として力強く、相手の受けにも全くひるまない踏み込みの強さを感じました。注目すべきは左辺の駒の活用。特に金と桂馬の活用法です。

左の桂馬は「振り飛車の命」と称されるほど使いどころを大切にしたいのですが、本書の棋譜を並べてみると桂馬の使い方のタイミングが絶妙です。振り飛車党なら一度は並べてみたくなる桂馬の使い方です。

左の金の使い方は中飛車編で目立ちますが、バランス重視で左に配置、もしくは動かさない状態からモリモリ上部に活用していくの構想が面白いです。金はもともと守りの駒ですが、バランス重視の現代においては攻めに活用していく筋も多いとか。とにかく左金の使い方も学んでおきたい棋譜が目立ちました。

 

劣勢時の指し回し…本書で目立ったのは、序中盤のミスをあえて掲載していることです。西山女流二冠が本書で、「形勢が悪い」「不利になった」「負けを覚悟」という表現を使うことも多かったです。

振り飛車は「不利飛車」と揶揄されるほどAIの評価が厳しいとの声もあります。ですが指すのはあくまで人間。西山女流二冠の勝ち方には、人間らしい勝負手で相手を悩ませ、豪快な大技で逆転していくという内容もありました。形勢不利でも、逆転の起点を作り勝ちに持っていく技も棋譜から学べます。

 

相手棋士のネームバリュー…今回掲載されている棋譜で最も多い対戦相手は里見香奈(さとみ・かな)女流五冠。30局中8局が里見女流五冠との対局です。このうち掲載されている棋譜の内訳は、中飛車編に1局、三間飛車編に2局、相振り飛車編では5局も掲載されています。

里見女流五冠は中飛車を得意とされる振り飛車党。西山女流二冠の里見評は「序盤のうまさ」をとりあげています。相振り飛車編の棋譜を見た感じでは、里見女流五冠が序盤で意欲的に指してリードを奪うのが上手という印象で、西山女流二冠曰く「里見さんの相振り飛車のうまさを引き立たせてしまう」棋譜になるということです。

このお二人は、昨年は女流タイトル戦などで何度も戦いました。ゆえにこのお二人でないと分からない部分も多いのもあるかと思います。女流棋界の「絶対女王」にどう立ち向かってきたのかという視点で並べても面白いかと思います。

 

さて本書は女流棋界のトップクラスで戦う「永世女王」による、振り飛車の勝ち方のエッセンスが詰まった書籍です。振り飛車党の方はぜひ読んでいただきたい一冊です。特に、中飛車、三間飛車を軸として戦われている方にはおススメと言えるでしょう。

居飛車党の方も急戦、持久戦両方の戦い方が掲載されているので読んでも損はないと思います。将棋情報局のサイトによれば、難易度は中級~有段者向けとあります。「豪腕」と呼ばれる指し回しを真似するのはなかなか難しいですが、振り飛車の戦い方の一つの参考になると思います。ぜひ一度お手に取って、永世女王の力強い指し回しを味わってみてください。

 

 

この本を読んで将棋が好きになった、将棋が強くなったというお声をいただければ、これほどうれしいことはありません。読者の皆様が将棋本を読んで、将棋が好きになる、将棋の力が強くなることを祈念いたします。なお、次回の書籍紹介は2/17(金)を予定しています。

今日はここまでとさせていただきます。本日も長文となりましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。

 

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