2手目△8四歩の世界 -2ページ目

2手目△8四歩の世界

将棋倶楽部24で三段の居飛車党が2手目△8四歩から始まる定跡の歴史および現状について簡単にまとめます。観戦時にガイドとして使っていただければ幸いです。記事中では棋士の敬称は省略します。

2手目△8四歩の世界

初手からの指し手
▲7六歩 △8四歩 ▲6八銀 △3四歩 ▲6六歩 △6二銀
▲5六歩 △5四歩 ▲4八銀 △4二銀 ▲5八金右 △3二金
▲7八金 △4一玉 ▲6九玉 △5二金 ▲6七金右 △7四歩
▲3六歩 △3三銀 ▲7七銀 △3一角 ▲7九角 △4四歩
▲3七銀 △4三金右 ▲3五歩 △同 歩 ▲同 角 △4五歩
▲5七角 (基本図)


・26手目△4三金右

 △4三金右は柔軟な手で形を決めないで指そうという狙い。


・27手目▲3五歩

 (1)▲4六銀と出るのは、後手だけ作戦を選ぶことができる。例えば△7三銀から7筋交換をしたり、△6四歩から6筋を狙ったりと選択肢がある。後手は1歩持つと4六銀を狙って△4五歩の筋ができる。もちろん▲4六銀には△6四角と最も実戦例の多い進行に戻すこともできる。

 (2)▲6八角は疑問手。△7三銀から7筋交換されると、先手も3筋を交換するくらいで、こうなると▲6八角と途中下車した一手が無駄になる。

 △4三金右には(3)▲3五歩が▲3七銀からの継続手で、ほぼこの一手。


・28手目△3五同歩

 ▲3五歩には、(1)△3五同歩▲同角△4五歩、(2)△3五同歩▲同角△6四角、(3)△4五歩の3種類の応手が考えられる。実戦例は(1)が最も多く、(2)と(3)は少数派。

 本ページでは(1)△3五同歩▲同角△4五歩を扱う。


・30手目△4五歩

 △3五同歩▲同角△4五歩は玉頭から盛り上がることが3筋交換を咎める狙い。


・31手目▲5七角(基本図)

 先手は目標にされている角を引く。

 本譜▲5七角が最も多い逃げ場所で、後手が△6四角と出たときに▲6五歩~▲6六角を用意している。

 深く引く▲6八角もあるところで、メリットとしては△3三桂~△4五桂が角に当たらなくなること。デメリットとしてこの場合は△6四角には▲6五歩~▲6六銀といくことが多くなるため玉がやや薄くなること(▲有吉-△南、1987年12月・順位。近年の実戦例として▲長岡-△藤倉、2005年8月・非公式戦)。


 基本図では(1)△5三銀と△4四銀右から厚みを築く手と、(2)△6四角と先手の攻撃陣を牽制する手が考えられる。

 他に(3)△4四銀と4筋の位を△5三銀~△4四銀右より1手早く確保する手もあるが、右銀の使い方が難しく、ほとんど指されていない。一例として▲谷川-△中原(1985年5月・名人5)。


(1)△5三銀
2手目△8四歩の世界

基本図からの指し手(1)

△5三銀 ▲4六歩 △4四銀右 ▲4八飛 △3四銀 ▲7九玉
△4六歩 ▲同 角 △9二飛 ▲3六銀 △4五歩 ▲2八角
△3五歩 ▲4七銀 (1図)


・33手目▲4六歩

 厚みを築かれる前に4筋から動くのが機敏な仕掛け。


・34手目△4四銀右

 △4六同歩は▲同銀で先手作戦勝ち。▲4六同角も先手十分。△4四歩~△4五歩と2手かけて取った位を簡単に解消されてはまずい。


・37手目▲7九玉

 ▲3五歩△同銀右▲4五歩と攻める手(一例として▲石田-△南、1985年7月・順位)や▲3六銀と出る手(一例として▲脇-△谷川、1986年5月・王座)も見えるが、いずれも△3三桂から戦いになる。入城前に戦いになると先手自信がない。まずは玉の安定を図りたい。


・38手目△4六歩

 △3三桂がさらに4筋に力を足す手だが、▲8八玉△8五歩▲3六銀△6四角▲3五歩△同銀右▲同銀△同銀▲4五歩△4六歩▲6五歩△7三角▲6六角(▲7五歩△同歩▲4四銀とさらに過激にいった実戦として▲羽生-△桐山、1988年8月・早指し)が一例で、以下△8六歩▲同銀△4七歩成なら▲同飛△1九角成▲4四歩△同銀▲3四歩△4五桂▲3三銀と攻めて先手良し(▲有吉-△羽生、1989年6月・王将)。この展開は▲6六角や▲7五歩△同歩~▲7五角と出る筋が効果的になり、先手が▲5七角と引いた手が生きる。

 △3三桂は先手が▲3五歩△同銀右▲4五歩や▲3六銀と動いてきたときにカウンター気味に指したい。このタイミングで△3三桂は上記の変化のように玉を十分に囲ってから動かれると、玉の薄さが響く展開になってしまう。

 本譜は△4六歩。▲4六同角△9二飛とされてしまうのは悔しいが、二枚銀を生かして厚みを築きにいく。


・39手目▲4六同角

 ▲4六同銀には△4五歩▲3五歩△6四角が7九玉型を咎めて王手飛車を含みにした面白い手で、以下後手は上部開拓から入玉含みに戦って十分。

 先に▲8八玉としておくのも△6四歩と▲4六角が飛車取りに当たるのを防がれてどうか(▲森内-△富岡、1992年3月・竜王)。


・41手目▲3六銀

 銀を活用しつつ、角を2八へ引く退路を作る味のいい手。


・45手目▲4七銀(1図)

 1図は、▲佐藤(天)-△森内(2011年12月・新人王記念)の進行。角の利きが強く先手十分とされる局面だが、後手の3~4筋の厚みも大きい。



(2)△6四角

2手目△8四歩の世界

基本図からの指し手(2)
△6四角 ▲6五歩 △7三角 ▲1八飛 △5三銀 ▲7五歩
△同 歩 ▲7四歩 △5一角 ▲4六歩 △3四銀 ▲4八飛
△4四銀 ▲3六銀 (2図)


・35手目▲1八飛

 ▲7五歩からの確実な攻めが残っているので、一旦かわしておく。


・36手目△5三銀

 角の退路を用意しつつ、銀を活用していく。


・37手目▲7五歩

 △4四銀右~△3四銀と好形を作られる前に動いていく。


・41手目▲4六歩

 角を追ってから、▲4六歩が機敏な一手。


・42手目△3四銀

 △4六同歩は▲同角でも▲同銀でも先手が好形を築くことができる。類似形として▲脇-△西川(慶)(1992年10月・王座)。


・45手目▲3六銀(2図)

 十分にポイントを稼いだと見て、▲7九玉と玉を囲うのも先手ペースの戦い。類似形として▲藤原-△中原(2004年10月・朝日)。後手は△4六歩と取りづらいため、固めてから4筋を攻めていけばいい。


 2図は先手良し。以下、△3五歩は▲4五歩△3三銀▲3五銀、△3三桂は▲4五歩△同銀直▲同銀△同銀▲3七桂△3六銀▲4六角がある。

 基本図から△6四角はややタイミングが早く、▲6五歩~▲7五歩と角を追われている間に先手にポイントを稼がれてしまう。



【先手十分】

 基本図から△5三銀~△4四銀右の変化は有力。「基本図からの指し手(1)」の手順中、38手目△4六歩とした局面は手持ちの棋譜では先手の1勝3敗と後手の勝率が悪くない。ただ、1図では2歩を手持ちにしている、大駒の働きが良いと先手に主張が多く、後手は位を頼りに入玉含みで指す展開となり、あまり自信がないということだろう。