仕事内容で言えば銀歯・入れ歯といった歯科医療用補綴物(以下技工物)を作るのがメインで、保険適用・自費治療などにより作るものが細分化される。歯科医師も作る事は可能だが、基本的には作るのは歯科技工士であって歯科医師ではない。
だがしかし、世間的な認識では「歯医者さんが作ってる」となっており、僕らの努力やストレスなんて見向きもされない。歯科医師はただ〇〇を作れという指示書を書くだけで、患者の為に日夜残業ありきで働く歯科技工士に上から目線で来ることがほとんどである。
少しばかり脱線するが、歯科における国家資格は歯科医師・歯科衛生士・歯科技工士で、歯科助手は俗に言う素人である。また、本来は歯科医師を頂点とし、歯科衛生士と歯科技工士はほぼ対等な位置関係にあるはずなのだが諸事情により歯科医師>歯科衛生士>歯科技工士となっているのが昨今のチカラ関係である。
なんなら、歯科衛生士>歯科助手>歯科技工士なんて事になっている職場も少なくない。事実、僕の最初の職場であった歯科医院のチカラ関係はそうだった。何故に素人で国家資格すら持ちえない歯科助手にデカイ顔をされなければならないのか。何故歯科衛生士に馬鹿にされなければならないのか。そんなストレスを頭いっぱいお腹いっぱい詰め込まれた20代前半だった。
僕ら歯科技工士が歯科医師の指示のもと作った技工物はまず患者に評価されるわけではなく歯科医師に評価される。おかしな話で、エンドユーザーである患者が満足しても歯科医師が気に入らなければ再製にされる事がある。ちなみにそれはまさに僕の現在勤務している歯科医院の話で、エンドユーザーの満足フル無視で自分の好みを患者に押し付ける輩がいる業界である。
違和感なく自然な物を作ることを目標とするよう切磋琢磨する歯科技工士と、そんなことはどうでもいいから白くて綺麗な歯を作れという歯科医師の組み合わせで患者の満足度が高い治療が行われると思える人はいないだろう、根本からベクトルが同じ方を向いてないのだから当然である。
だからといって諦めるのか抵抗するのかといったところがこの日記で言いたい本題なので、導入が長くなってしまったがまぁ気にしない。
僕ら歯科技工士が嫌いな職業の統計をとったらおそらく…いや、間違いなく第一位はダントツで歯科医師である。
本来パートナーであるはずの歯科医師は基本的には傲慢・ワガママな輩が多い。自分は勉強してるから間違いない・ 余計な口は挟まず指示通り作ってればいい・納期は早く安くしろ…挙げればきりが無い程に酷い物言いをする輩が多過ぎるのだ。
納期は急かす・クオリティは高いものを求められる・でも単価は下げろと言うなんともファンキーな業界だ。他の物を作る業界でも同じなのかもしれない。だが、僕らが作るものは生体装置なので他業種の方には申し訳ないがそもそものカテゴライズが違うので、これを読んだ「うちの業界だって」という思いはあると思うが今はちょっと落ち着いていただきたい。
早く・安く・いいものを提供する。それはよくファーストフードの謳い文句として耳にする。…が、それは所詮ファーストフードである。
よく勘違いされている事なのでここで書いておくが、僕らが日頃作っている銀歯・入れ歯はすべてが患者個人的に向けて一から製作されるフルオーダーメイドである。
既製品を使いまわす事が可能な内容もあるが、使い回しても結局は患者それぞれの為に加工するので完成形がまるっきり同じものというのはこの世に存在し得ない。例えば、同じ患者の入れ歯を上顎用・下顎用でそれぞれ上下AとBで2組作っても、上顎用Aと下顎用Bでは噛み合わせが微妙に合わない事がある。そういうものなのだ。
だから、よく患者から旅行に行く・お盆休み直前だから急いで治したいなんていう要望と共に無茶な納期を言われるが、「そこまで悪くなる程放置したのは患者なんだから我慢しろよ」というのが歯科技工士の本音である。
ただ作るだけであればいくらでも急ぐことは可能である。だが、それは生体装置としての機能を深く考えていないものになる。「その場凌ぎ」に患者が数千円払う現状を僕はあまり良しと思っていない。保険証のお陰で患者の自己負担額が減っているからこそ気付きにくいが、実際の治療費というのは馬鹿にならない。自費治療をする患者の中には口の中だけで数百万もの大金をかける人もいる。
ところが、その数百万の価値に見合うものが作らせてもらえない作業日数でオーダーされていると知ったらどうだろうか。
これもあまり言うと叩かれるんだろうがそんなこと知ったことではないので書いておくと、歯科医師は善良な人ばかりではない。というか、「真面目に治療すればするほど赤字」な業種なのだ。これはその稀に見る善良な歯科医師の方々みんな仰る言葉で、要は「口の中なんてどうなってても患者は素人だからわからない。わからないってことは騙すことも容易で詐欺まがいの事がいくらでも可能」という事である。
実際、人間というのは歯が痛くなくなったらそれでもうオッケーみたいな部分が強い。よほど歯列にコンプレックスがあるとか口の中の状態に敏感でもない限りそこまで神経質になっている人はみかけない。
これも事実であった話で、とある県の歯科医師は治療中につけておく仮りの歯を自費治療の最終的に被せる歯として患者に装着し、約数百万ぼったくったなんて事もある。仮歯は最初のうちは色が白く患者はそれで綺麗に治してもらえたと思い込みやすい。その心理を突いての詐欺である。
「歯医者は破壊者(歯か医者)」という名言もあるほどで、ろくに勉強もせず患者の事を真剣に考えない歯科医師は大勢いる。医療人であるはずが医療より金儲けに走るのだ、そんな業種を好きになれるわけがない。
僕自身、今年で歯科技工士として11年目を迎えている。
たまたまというか身近に日本トップクラス・世界でも名の知れた歯科技工士の方が数名居たこともあって目が肥え、自分の目標のような物も必然高くなる環境にいる事ができている。
これも予備知識だが、日本の歯科技工士は世界トップクラスのクオリティを誇る人が多く、日本の歯科技工士と仕事ができるのは海外の歯科医師にとってはステータスになりえるのだそうだ。実際、日本の歯科技工士のトップクラスの方々は世界指折りに余裕で入っていらっしゃる。業界の革新的な技術を世に広めたのも日本の歯科技工士の方々がほとんどである。
職人の業界にいる方々はご存知だと思うが、職歴=スキルの高さではない。だらだら続けている人は必然下手くそであり、考えて考えて試行錯誤と修練を重ねた人はほんの数年しかやってなくても上手いのだ。
当然ながら身の回りの歯科技工士の先輩にはそういう残念な方々も大勢おり、何かにつけてセンスがあるとか何か持ってる・〇〇さんに教えてもらえばそりゃ上手くなるなどといった僻みや言い訳をする。
違うだろ、自分が怠けて来ただけだろと言いたい。センスがあるとか上手い人に教われば確かに上手くなるが、あくまで上達スピードが早くなるだけで上手くなれるかは本人次第である。
そういう人達を反面教師にする事で自分の中で持っている歯科技工士としての義務として、「職歴に見合っただけのスキルは持っていること」を掲げている。11年目、既に若手ではなく大抵の場合「ちゃんと出来る」イメージを持たれる。自分がどれほどの腕前なのか、それは自己評価ではなく周囲からの評価が物を言うが、自分の中で常に「自分はまだまだ下手くそ。もっと上手くならないと恥ずかしい」という気持ちがある。よく謙遜しすぎと言われるが、本当に上手い人を知っているので慢心なんぞしていられない。
歯科技工士は患者の歯型を1番いろんな角度から眺めることができ、審査し、考察する事ができる。歯科医師よりも長時間患者の口の中と向き合うので、歯科医師よりも患者の歯列の問題点に気付きやすい。
歯科医師のミスにも気付きやすいので、そこを指摘する事もまた歯科技工士の務めだと思うが歯科医師はそれをされるとおもむろに怒りだす輩が多い。先に書いたが自分は間違っていないと言い張るのだ。いや、間違えてるから言ってるのだが…となる。
それを指摘し、間違えてるとちゃんと納得させられるだけの実力を持っていないと、患者の為に最善の物が作れない。
世界トップクラスの歯科技工士さんが「作り手(歯科技工士)が作るのに苦労するものは入れる人間(歯科医師)も苦労するし、何より1番しんどいのは患口を開けてる時間が長くなる患者さん。だからこそ歯科技工士は歯科医師にちゃんと物を言えないといけない。歯科技工士がストレスなく作れるということは、結果として患者も歯科医師もストレスがない仕事であり、1番素晴らしい結果を残せる」という台詞を講演で仰っていた。
まさにその通りだと思い、自分もそういう歯科技工士になれればいいなぁと思ったあたりから考え方が変わった。歯科医師に指摘するのではなく、提案するとどうなるのか。相手のプライドを損ねず、歯科医師が楽になれるように誘導する。結果として患者が喜んでくれる・患者にとって最適な物を作るのが目的なので、歯科医師をノせる手段はどうでもいい。そう考えるようになってから、歯科衛生士の領分の勉強をしてみたり、顎関節・筋肉についてもう一度深く勉強したりして徐々に結果を残せるようになり、勤務の歯科医師から信頼されるようにもなってきた。
なんやかんやここまでしんどい思いをしてきたのでちっぽけながらもプライドだってあるし、自分がやるからには患者にとって最善だったと思わせるような仕事にしたい。もう辞めたいとか友達には軽く口にするけど、なんやかんやとやりがいも持ってて好きな仕事でもあるのだ。
最近、神経質な患者で僕が担当してうまくいかなかったケースがあり、僕がダメならうちじゃ仕方ないねと担当医に言われた事がある。とても悔しかったし、患者に申し訳なかった。あーゆー悔しい思いってなかなか消えなくて、似たようなケースの患者の仕事が来るとデジャヴの様に記憶が蘇る。
僕らの仕事は綺麗事が沢山並べられる。でも、並べるだけで実際汚いことをする人間も沢山いる業界。自分が汚いことをしてないとは言いきれないしきっと言えない。でも、正面切って正々堂々と綺麗事ができるように、綺麗事を患者に言えるようなスキルを持ち仕事をする。それが自分なりの仕事に対する意地であり目標でありポリシーである。
偉そうな日記になっちゃった(笑)