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「翔」
 背中に呼びかける。翔は振り向き微笑んだ。右手を軽く上げる。高藤は息をついた。

「翔」
 駐車場の自分の車の前で誰かに呼び止められる。幼馴染の圭太であった。今日は警官の制服は着ていない。
「来てたのか」
「仕事の帰り」
「大声でそんな事言うな。俺の立場も考えろ」
 圭太を辺りを見回した。煙草をくわえる。
「火ぃあるか」
 翔はポケットからライターを出した。圭太の顔に近付ける。
「来週の週末、デカい取締りだ」
「どこら辺」
「サクラビル辺りの道から一斉だ」
 圭太は煙草に火が点いたのを確認すると翔の顔を見ずそのまま去って行った。  翔はオープンの車に乗り込み、煙草を一本吸ってそして消した。

 

家に帰るとビデオの音がする。翔はただいま、と声を掛けた。
「おかえりー」
 ミギコはベッドの中から笑顔で手を振った。
「いい匂い。パン?」
「あったりー」
「神父さんがくれたの?」
「今食べるか?」
「ううん、さっきサンド・ウィッチ食べたから」
 翔は上着を脱ぎながらベッドの横に置いてある皿に目をやった。昨夜仕事に出る前に作って行ったサンド・ウィッチが二口位食べられたままそこに乗せてある。
「もっと食べなきゃ駄目じゃん」
「うん、お菓子も食べたから」
 ミギコの嘘。痩せ細った身体。もう固形の食べ物を徐々に受け付けなくなって来てるのだ。心臓のモニターに目をやる。全ての線はミギコの身体に繋がっ

 梟(ふくろう)が巣に帰って行く。
翔(ショウ)にはわかっていた。それが朝の合図だと。

礼拝はいつも日曜の朝早くから行われている。翔は郊外の礼拝堂の近くに車を止めた。少し長めの髪にすらりとした長身をコートで包んでいる。

ドアを静かに開ける。飛び込んで来る高藤牧師の澄んだ声と色とりどりのステンドグラスの色。高藤は翔に気づくと微かに頷いた。座らず、一番後ろの壁に凭れる。誰かが声をかけてくれる。
「空いてますよ」
 翔は会釈をした。いつも通り。鮮やかな色取り取りのステンドグラス。光達。翔は目を擦った。右からの光。太陽の差し込む光。

 矢、みたいだ。翔は思った。

矢、みたいだ、と。

 

「ちゃんと食ってるのか」
 高藤は礼拝の後、紅茶を淹れながら翔に尋ねた。礼拝堂の横にある私宅のテラス。翔はデッキ・チェアーに座りながら頷いた。
「仕事終わりに来るのはいいが運転は大丈夫なのか。ろくに寝てないんだろう」
「少し寝たよ」
 暖かい紅茶。息を付く。
「翔、少し仕事休んだらどうだ」
「休めないよ。レンタル料も要るし」
「医療器具っていうのはそんなに高いのか」
「まあまあ」
「お前が倒れたら元も子も無いんだぞ」
 翔は立ち上がった。
「そろそろ行くよ」
「待て、これを持ってけ」
「あったかいね、焼き立て?このパン」
「ああ、礼拝の前にな」
「ありがとう。ミギコが喜ぶよ。じゃ」
 翔はテラスの柵をひょいっと飛び越えた。