平成生まれの方々に是非読んで欲しい!!千明初美先生のちひろのお城 | きたがわ翔のブログ

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漫画家です。
仕事や日常生活についてゆる〜く発信していこうと
思っています。

このところ趣味に走りすぎたブログを連発していたので今回は少し真面目に....(ホントか?)

 

現在私の手元に復刊ドットコムから発売された千明初美作品集、ちひろのお城があります。

私の大大(×100)くらい大好きなものすごく思い入れのある作品です。

思い入れといいますか、ぶっちゃけて言うとその昔私を救ってくれた作品です。

 

なんと!!ファンのお一人であったあの高野文子先生が、千明先生にご承諾をとり、復刊にこぎつけたとのこと。

経緯もふまえるとまさに感涙ものの一冊ですよ!!

 

帯に書かれた高野先生のひとこと推薦文になんだかじーんとさせられます。

 

 

40年前のりぼんにね こういう漫画があったのよ。

 

 

ちなみに彼女のデビューは1970年のりぼんコミックであります。

 

 

そうそう、私は40年近く前に親戚の家でそこのお姉さんが購入していたりぼんマスコットコミックスで初めてこの漫画を手に取ったのでした。男子にも抵抗のないすっきりした可愛い絵柄に好感を持ち一気に読み始めました。

 

 

 

小学5年生のちひろはクラスの輪に溶け込めないちょっぴりかわった女の子。

 

 

唯一の心の支えであった病弱なママが亡くなり、ちひろはますます自分の殻に閉じこもってしまいます。

そこへ田舎から母方のおばあちゃんがやってきます。

 

ちひろは偏食で魚も卵も食べられません。

人に髪を触られるのが大嫌い。

自分の部屋を人に掃除されるのも大嫌い。

 

そんなちひろに対しおばあちゃんは根気よく接してくれます。

 

ちひろが熱を出した時、おばあちゃんがガラスのボウルに入れた梨を持ってくると

そこではじめてちひろの顔が少し明るくなり、

 

わあ どうしてわかったの!?ちひろの好きなもの

 

 

やっぱりねえ あんたのママもこれが大好きだったよ

似てるねえほんとに そうやってると昔のあの子にそっくりだよ

 

 

途端にちひろはうつむきながらこう心の中で思います。

 

 

一つだけちがうわ ママはやさしい人だけどちひろはいけない子よ

 

 

 

この後、象徴的な幼少期のエピソードが描かれます。

 

お部屋のなかで自分だけのお城をこさえるちひろ。

 

お姫様はこのいすに 王子様はあちらのつくえ 番兵はここ 丸いすは門

それはもうちょっとでも動かすのがもったいないくらいのできばえだったのよ

 

ところがある日、母親が連れてきた近所の子が部屋に置いてあるものを動かしてちひろのお城をめちゃめちゃにしてしまいます。

 

ちひろのお城をもとにもどしてもどしてよーっ

 

泣き叫ぶちひろ。

 

 

はっきり言いますね。子供のころ私は幼くてこの漫画の深いところがわかりませんでした。

むしろ千明作品の他の作品は好きだったのに、当時この漫画だけは好きになれませんでした。

 

ちひろに対し、正直なんてわがままなんだろう、と思ったからです。

 

自分の部屋にあるおもちゃをその子らが取ったわけでもなく、動かしただけなのになんでそんなに怒る必要がある?

また後で自分が直せばいいだけじゃん。

 

ラストまで納得いかないまま読み終わり、本を閉じたのを覚えています。

けれどこのお話の後半、雨の中で慟哭するちひろに対しおばあちゃんが放った言葉

 

一番苦しんだのはあんたかもしれないんだから

 

この言葉のみ頭の片隅にずーっとひっかかっていたのでした。なぜだかはわかりませんが.....

 

 

 

 

時は流れて、私が一番バリバリと仕事をこなしていた時のことです。

仕事場に新しいスタッフのSくんが入ってきました。

彼が入って1日目に問題は起こりました。

 

私もうちにいるスタッフも皆、自分の趣味や好きな漫画のことを話し出すと止まらなくなる人たちであって、漫画を描く人はおしなべてそうなのだと信じて疑わなかったのです。

 

仕事をしながら、他のスタッフが彼にありきたりな質問をぶつけます。

 

どういう漫画が好きなの?趣味は?

 

何も答えません。彼は少し困ったように笑うだけでした。

仕事場になんとなく漂う気まずい空気。

次の日もその次の日も。

 

あのさ、こっちとこっちどっちが好き?

 

相変わらず答えない彼。しびれを切らしたスタッフがこう言います。もしかしてこっちが好き?

 

するとようやく彼は答えます。はい、たぶんそっちだと思います.....

 

自己決定せず、すべての意見を他人に委ねるような彼の態度に私もスタッフも皆イライラし始めます。

しかも、こっちがイライラしてるのに、彼はなぜその空気が読めないんだろう?

そう彼は今まで私が接してきたスタッフの誰とも似ていない、というか今まで一度も出会ったことのないタイプの人でした。

 

彼をこのままうちに置いておいて大丈夫だろうか?

Sくんは仕事中人の質問に対し、ひとつも真面目に考えてくれないしなあ。

 

 

そんなある日、私はたまたまネットでとあるページに釘付けになってしまうのです。

それはアスペルガー症候群について書かれたものでした。

対人的相互反応における質的障害についていくつかの症例が、なんとSくんとあまりにも一致するのでした。

決め付けは良くないですが、とにかくそっくりだったのでした。

 

 

そうか....もしかしたら彼は質問に対して真面目に考えていないのではなくて、一度にたくさんのことをこなせない、仕事中背景の作業に集中しながら同時に人の話を理解することが難しいタイプなのかもしれない。

だからついつい適当に返答してしまうのかも。

 

 

そんな時、ふと記憶の奥から出てきたのがちひろのお城とその中に出てくるおばあちゃんの例の言葉でした。

なんとなくその言葉の意味をもう一度確かめたくて、古本屋から取り寄せてちひろのお城を十数年ぶりに再読しました。

 

 

 

 

話の後半、おばあちゃんの優しさに徐々に穏やかな心を取り戻すちひろ。次第にクラスメイトとも打ち解けてきたある日、

隣の席の子がちひろの髪に触ります。

 

きれいねえ、真っ黒でつやつやしてて 手入れがいいのね

 

 

いや やめて!

 

 

髪に触られるのが苦手なちひろはおもわず友達を突き飛ばしてしまいます。

 

キャア血よ!先生先生ーっ!

 

 

そして行動を理解できない父親がついにちひろを叱咤します。

 

もう赤ん坊みたいな考えはあらためることだ

ママがおまえのためにどんな苦労をしたか知ってるか おまえの気まぐれに神経をすりへらし

弱い体に無理をかさね 死の間際まで心配し続けたママの心がおまえにはまだわからないのか!

 

ちひろは涙を浮かべ

 

そうよ ちひろがいけないのよ

ちひろがママを殺したんだわ

 

 

 

 

雨の降る外に駆け出すちひろ。振り向きざまにおばあちゃんが父親に向かって叫びます。

 

ひどすぎやしないかい あの子だってどんなに苦しんだかしれやしないんだよ

 

 

んん?私が覚えているのはこのコマだっけ??なんだか違うような.....??

 

 

傘を持って後を追うおばあちゃん

 

ほっといてよ ちひろの心は病気なんだわ!

死んじゃった方がいいんだわ!

 

あばれるちひろにおばあちゃんは心の中で叫びます。

 

 

ちひろちゃん

泣きたいだけお泣き あばれたいだけあばれればいいよ

一番苦しんだのはあんたかもしれないんだから

 

あーーーっ!!このコマだ!!

読み進めながら動悸がはやくなるのを感じました。

 

 

続けておばあちゃんは言います。

 

あんたは病気なんかじゃないよ 他の人よりちょっぴり感じやすいだけさ

 

 

 

翌日、突き飛ばして怪我させてしまった子がちひろの家の前に現れます。

 

きのうはあのまま帰ってしまったけど あとであなたのこと心配になって....

すごく気にしてるんじゃないかと

おかあさんがね、髪の毛いじられるのきらいな人も中にはいるんだって

あたし知らなかったもんだから....

 

あ あの...ケガは?

 

ああこれ...大げさなのよみんな

ちょっとぶつけただけ

それよりはやく出てきて 隣の席があいてるのはさびしいもん

 

ちひろがいないとさびしい.......?

 

 

 

 

私、このコマで思わず泣いてしまいました。

 

なんて優しい漫画なんだろう!!子供の頃は全くわからなかったけど.....!!

ちひろはけっしてわがままな女の子なのではありません。まわりに迷惑ばかりかけている自分を常に責めつつ

それでも自分の世界を崩せなくて苦しんでいるとっても繊細で傷つきやすい女の子だったのでした。

私のようなアホな小学生しかり、子供が読むには少々ハイブロウな作品かも知れませんが、この作品に救われた子供もきっとたくさんいるはずです!!

 

そう考えてみると、むかしクラスに一人はちひろみたいな子っていたような....

 

そして....私が漫画を描いてる人間だからこそよくわかる千明先生の画力のすごさ!!

伸びやかな描線、少女の可愛い仕草、背景のラフでいながら質感のある描写。全体を包む透明な空気感。

 

派手なテクニックが駆使されているわけではないのだけれど、言ってみれば天才的に腕のいい職人が

肩の力を抜いてリラックスして描いている、まさしくそういう絵なんです。もうため息しか出ません!!

 

そして.....

 

その後Sくんはどうなったかと言いますと...?10年以上うちのスタッフを完璧に務めてくれました。

ああいう部分は彼の個性なんだ、と皆で思うようにしてから彼の言動は全く気にならなくなりました。

もともと彼、性格はとても素直ないい人でしたから....

 

 

 

 

おまけ。

 

千明先生のようなタイプの漫画家ってなかなかいないなーと思っていたのだけれど、その昔

別マでひとりいい感じの新人が出たことがあったんです!!庄司久美子さん(主婦兼漫画描き)という方で、ひとめ見た時、

 

おおっ、これは千明先生の後継者になれるかも!?と正直感じたんですが.....

 

ね?千明先生を思わせるとってもかわいい絵だと思いません?

 

 

読んでみると内容にもかなり千明リスペクトを感じたんですが、結局この一作で終わってしまいました。残念!!

そうそう、この庄司さん、出た時やけにうますぎる!!と思ったら、この作品より数年前に同別マでしおのももこというペンネームですでに一度デビューされていたことが判明。

その頃はもう少し市川ジュン先生風のタッチだったようです。

 

 

この頃の絵もかわいい!!