「母なる大地、豊穣なる土」

自然食の業界でよくいわれる言葉です。

盛んにこうしたことを言うのですが、その実態はといえば真逆。

土に作物を育てるだけの力はない。土はいつだって貧栄養。

だからこそ有機肥料や化学肥料を使って、土の栄養不足をどっちゃりの肥料で補おうとする。

土は根っこを支えるだけのもの。作物にとっての単なる土台に過ぎないもの。

野菜を育てるのはいつだって、

"肥料！"

あとは有機か？化学か？の違いだけ。

これが有機栽培を含めた現代農業、その偽らざる姿ではないかと思うのです。

これに対して肥料も農薬も一切使わない自然栽培においては、土そのものが栄養のカタマリ。

作物を育てるのはあくまで「土」。

だから肥料などは不要である。不要どころか、害悪である。

肥料は虫を呼び、腐敗菌を蔓延らせる元凶になってしまうものだから。

土の性能を理解して、その無尽蔵の力を最大限に引き出ていくこと。

それこそが耕作者の仕事である。

肥料も農薬も一切使わない自然栽培においては、このように考えられているのです。

※春からの闘病で遅れていたのですが、ようやくトマトの一番果がつきました！

■農業と医療
最近は動画サイトやSNSの普及などで、さまざまな動画が日々たくさん公開されています。

それは農業においても同じで、今なら夏野菜についての見切れないほどの動画が日々アップされ続けているのです。

それらを見るにつけ、いつも思うのは、

「技術一辺倒」

キュウリならこうセヨ！トマトはこれをしないと失敗する！ナスなら一株から百個以上の収穫を！

こうした一種の脅迫めいた文言の内容で溢れ返っている・・・、それが私の正直な印象です。

キュウリならキュウリと十羽ひと絡げにしてしまう。そこに個性も違いも何もない。

それは現代医療における『標準医療』、これと同じニオイを感じてしまう。

栽培する地域の気候条件も違えば、土質の違いだってあるはずのもの。

露地栽培と施設栽培の違いもあれば、苗からの栽培とタネからの栽培といった違いもある。

同じタネからであっても、買ってきたタネなのか、自家採種しているものなのか？マルチの使用の有無はどうなのか？

こうした違いだって、キレイに無視されてしまっている。あまりに大雑把過ぎるのではなかろうか・・・。

収穫量がそのまま収入に直結する栽培農家の方々にとっては真剣そのものなのでしょう。

でも正直、色んなことをあれもこれもと思ってしまうのです。

※自然栽培トマトの雨除けガード、昨日の豪雨にも功を奏しています！

■人を見て法を！
日本列島は南北タテ長、

"亜寒帯から亜熱帯"

までと、実にバラエティーに富んだ気候をひとつの国に包含しています。

日本列島が「世界の縮図」といわれる由縁は、こうした多様性にこそあるはずのもの。

気候の違いは、栽培技術の違い。そもそもひとつの農業技術で、カバーできるようなものではなかったはずなのです。

それを気候・風土、土地の条件などを全部無視して、すべてを

「肥料・農薬」

といった、たった1つの方法に集約させてしまう。

肥料を使えば確かに作物はグングンと育っていきます。そうであるがゆえに、副作用として必ず起きてしまう虫や菌による被害。

それに対しては農薬を何度も使えば、矛盾をキレイに覆い隠すことができてしまう。

最近は細胞浸透系農薬(ネオニコチノイド系)が主流であるため、何度も繰り返し散布する必要がなくなっている。

※参考：『巧妙な業界用語に潜むワナ！強い・弱いからヒモ解く自然派食材選択考』

こうして野菜から個性が失われ、安全性も栄養価も、旨味も何も喪失していったのが経緯といえるのでしょう。

地域性や風土の違いを考えなくとも、それで済んでしまう。

その代償として、ただ舌先とお腹を満たすだけで、力の弱い農産物の山。

食材のチカラが乏しいからこそのサプリメント類の氾濫。これを許す状況を招いてしまっている。

さらに農業は『公害産業』、そう呼ばれて久しいのですが、肥料農薬といった化学兵器が土を汚し、作物を汚し、海や川をも汚染していく。

そしてそれを食べる人の心身までをも汚し続けてしまっている。

現代農業はこうしたものへとすっかり変貌してしまっているのです。

以前はというと、前の山の雪が解けてきたから

"そろそろタネを播こう"

こんな具合にして、地域ごとの農業が行われていたのです。

いわば地域やその土の状況に合わせた判断、自然観察眼が必要とされ、要求されていたわけなのです。

みんな一緒と、すべてをひと括りにしてしまう。

そのことへの矛盾と反省とが今こそ求められているように思うのです。

「人を見て法を説く」

の精神、その復権が潜在的にも、顕在的にも、待ち望まれているようにも感じます。

そうした自然を見抜くまなざしを再度、取り戻していくこと。

肥料・農薬を使わない自然栽培への関心の高まりは、それへのニーズの高まりでもある。

そんなことを思う今日この頃です。

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