前回のつづき
DSM分類にある1~9の症状を、具体的に動きの有無について分けてみると:
A. 動けない、動きがない~低下している症状
1.抑うつ気分:気分の落ち込み、とみなすと、動けない症状
2.喜び、興味の消失:楽しい、という感情がなくした、動きのない症状
(3.過眠:寝てばかりで動きがない、特殊なタイプ)
4.食欲低下・体重減少:食べたいという生物学的欲求が低下
5.精神運動制止:動けない、動きがスローと他者視線で分かるもの
6.易疲労感、気力低下:しんどい、気力が出ない、は当然動きがない
7.無力感:ダメだ・・がっくり、と諦め動けない。
8.思考力・集中力低下:頭が働かない、集中できず能率が低下、は動けない
9.希死念慮:微妙だが、うつの奥底での絶望感とすれば動きが停止
B.動きのある不安定な症状
1.抑うつ気分:辛く悲しくて・・という“悲哀感”は落ち着かない症状(しょっちゅう泣いている姿)、“不安”も伴いやすい、憂うつ、というのも不快で不安定な気分
3.不眠:眠りたいのに「脳が落ち着かない」 ので眠れない、と捉えられ、動きがあり安定しない症状、といえる。「あれこれ考えこんで眠れない」という人も多い
(4.過食:食行動の動きが大きい、このタイプは特殊)
5.精神運動性焦燥:イライラして落ち着かない
7.罪悪感:申し訳ない、と焦って不安定になる
8.思考力低下、決断困難:あれこれ混乱しスムーズに考えられない、決断できない、場合は、動きすぎて困る
9.希死念慮:積極的に死にたい、という人はアクティブな症状ともとれる
こうしてみると、すべての診断基準項目において、「動きがない」という症状はあるのだが、同一項目でも、動きの有無について、対極のものがあり、不思議な気はする。違いは、残っているエネルギーの程度やその人の性格により、どちらに傾いているか、である。
例えば、5の精神運動制止、または焦燥、という項目では、エネルギー低下が強いと、制止=動けない、が、多少のエネルギーが残っている頑張り屋さんでは、焦燥=しんどいのにやらなくちゃ、でも出来ずにイライラ、と表面的には反対の症状になってしまうから(参考:気分障害の人のイライラ感)。また“制止”と“焦燥”は、同じ人でも時期により行き来するし、精神的には焦燥感が強くても、動きはスローということもしばしばある。
ちなみにほぼ完全に動きのない症状、としてよいのは2の“喜びの消失”と、6の“易疲労感・気力の低下”、だけとなる。
ということで、診断基準から離れて、改めて“動きのあるなし”についての観点でまとめると、おおまかに以下の2つがBの「動きがあり、不安定な」症状ということになる。
①不快気分:焦燥感(イライラ感)、不安感、悲哀感・憂うつ気分など
+罪悪感、希死念慮も不快気分を伴うことが多い
+衝動性の高さ
②不眠:脳が“落ち着かない”ので眠れない
先に述べたように「エネルギーがないにも関わらず、無理なことをやろうとして、苦しみあがいている、」という姿が、Bの症状である。これこそがうつ病において、早く楽にしてあげたい最初のターゲットで、前回述べたように
「向精神薬の即効性が期待できる症状」
といえる。そして鎮静作用のある薬、抗不安薬、睡眠薬、少量の抗精神病薬などで積極的に治療をすれば、早く改善効果が得られる。エネルギーが回復するまでのつなぎ、という意味でも、「動きがある症状」を薬で鎮静することは可能だし、重要なのである。