そもそも、精神科に来る患者さんたちは、一般的にかなり困ってから受診する。真面目に一生懸命に仕事や家事や、人付き合いなど、常に頑張っていてダウンした“うつ病”の人はなおさらである。「これまではやれていたのに・・なんでこんなになっちゃんたんだろう?」「我慢してきたけど・・もう無理」と言いつつ、精彩なく落ち込んだり、落ち着かずイライラしたり・・

 

 全般的には

 「情けなくて、辛くて、どうにもなりません。助けて下さい」

 という雰囲気である。

 

 そこで“うつ病“と診断したら、まず抗うつ薬を中心とした薬物療法を考える。抗うつ薬の効果が出るのは前回書いたようにそんなに遅くはないが、かなり辛い状態で受診する患者さんは、できるだけ早く、「楽になりたい」と思うし、「良くなってきたという実感」を期待する。

 

 ガイドラインには、軽症うつ病においては、薬物療法は推奨されていないが、それでも患者さんの症状(=ニーズ)を考えて、即効性のある薬で、症状の一部を改善するべきと思う。具体的にいうと、不眠に対する睡眠薬や睡眠効果のある抗うつ薬、不安や憂うつ気分に対しての抗不安薬などである。

 

 そして、早期に(早いときはその日のうちに)少しでもよくしてあげると、

 

 「楽になった」という満足感

 「大丈夫、何とかなる」という安心感

 「先生の勧める治療を続けよう」という信頼関係と治療意欲」

 

 という3つの大きなものが得られる。

 

 こういった対症療法としての薬物療法は重要で、抗うつ薬がなくても、鎮静的な薬だけで、中等症以上のうつ病がよくなる人もいる。もっというと、プラセボだけでも中等症のうつ病はよくなりうるのだから、プラセボ+α(鎮静的な薬)として考えると、なおその治療効果の高さが分かると思う。

 

 安易な薬物療法はたしなめられているが、少なくとも初期には、患者さんをがっかりさせるような治療はしたくない。だから必要な向精神薬は使うし、精神科医の多くはそういうスタンスだと思う。

 

 ありがちなのが、初診でSSRIを2週間分処方された患者さんが、吐き気によりしんどいだけで、楽になる実感なしに数日すごしたりする場面。「思い切って受診したのに・・(泣)」と治療意欲をそがれ、治療が続けられない、という残念な結果になりかねないから(脱落するということ)。

 

 ちなみに、初診から投薬なしに、精神療法と生活アドバイスだけで十分な治療ができるのは、高い技能をもつ数少ないスーパー精神科医だけだと思う(それでも効率はよくないが)。

 

(参考)

うつ病の症状の分類:薬物の即効性の観点から

うつ病の諸症状「動きがあるかないか?」 向精神薬を使うにあたって