患者さんの中には、あちこちの医療機関で多数の“診断名”を聞かされる人は結構いる。「あの病院ではうつ病と言われたけど、あっちのクリニックではパーソナリティ―障害と言われた。ここで不安障害に発達障害と診断されて・・。これまでの病院は誤診だったのか」と医者が信用できなくなったり、「自分は、うつ病、発達障害、パニック障害、解離性障害、統合失調症を患っています」と、告げられた多数の病名をすべて持っている、とよく分からないまま受け入れていたり。「いろいろ言われるけど、自分の病気はいったい何なのだろう」と悩む人もいる。

 

 こういうタイプの患者さんは、治療経過が思わしくなく、あちこちの医療機関に行きながら、はっきりした答えを見いだせない、という方が多いと思う。

 

 そういった「診断名」に伴う混乱はどうして起こっているのか?

 

 通常「医学的診断」というと、患者さんの訴えから、それを来す疾患をいくつか想定(鑑別診断)し、種々の検査など客観的な所見も踏まえて行われる。この「診断」という言葉を聞くと、病名=病気の本質であり、唯一の正しいもの、のような響きがある。

 

 医療において「診断」が持つ意義は非常に大きい。どう診断するかで、原因を同定し、その患者さんの治療方針が決まり、その後の経過を見通すこともできる。

 

 例えば、2か月ほど前から、気分が落ち込む、やる気がでない、イライラする、仕事がはかどらない、眠れない、・・などの症状が続いている人が初診したとする。これを聞くと精神科医でなくてもネットで少し調べてみたら「うつ病かも」と思うだろう。現在はDSM(アメリカの診断基準)を中心とした症候論が診断の基準とされ、診察の時点で基準を満たせば “正しい”診断“とされる。先の患者さんであれば、うつ病の診断基準を満たしているので、「あなたはうつ病です」ということになり、休養を勧めつつ、抗うつ薬にて治療をすることとなる。治療を続ければ2か月程休養して治療すればよくなるでしょう、など見通しも告げられる。

 

 これはいたって普通のことであり、シンプルにこの方針で上手くいくことが多い。問題は、想定通りの経過とならないとき。抗うつ薬投与後に、イライラや不安が強くなったり、しばらく使っても「元気もでないし、よくなりません」と浮上しなかったり。やたら回復が早いと思いきや、とたんに過活動=躁転したり。その経過について、うつ病によるactivation?抗うつ薬が合ってない、双極性障害?など、薬の効果と共に、診断について考え直すことになる。ここで気づくことは、診断というものはあくまで“暫定的”なもの、ということ。この後の展開であるが、抗うつ薬を変えたり、それでもダメで双極性?と気分安定薬を使ったり。あれこれ診断を修正しつつ、治療法についても変更を加えていく。

 

  つづく