近年、高血圧、高コレステロール血症、糖尿病などの慢性疾患により、長期的な薬物療法を受けている患者さんが、特に高齢者に多い。そのような治療を受けているお年寄りのなかで、身体科の先生から「認知症が疑われます」と精神科に紹介される人の中に、薬剤が原因の認知機能障害、と思われる患者さんをときどき見かける。

 

 先日診た患者さんを紹介します。

 

その患者さんは、80代の高齢おばあちゃん。もともと離島の過疎地で独り暮らしをしていた。検診で腎臓が悪い、と言われていたが、特に治療は受けず、血圧は高めだが、さほど気にしていなかったよう。日常生活では、家事全般もしっかりこなせ、元気に歩いて買い物にも出かけていた。

 

 そんな中、腎臓が悪い、とかかりつけ医から大きい病院に受診を勧められた。これを契機に、隣の県に住む長男さんを頼って引っ越し、同居することになった。ついで総合病院を受診したところ、末期腎不全になっており、「透析が必要」、と言われてしまう。

 

 まあこの齢で透析受けるのも大変なんだけど、実年齢よりも若々しい人なので、息子さんも「ぜひ透析お願いします」。本人も息子がそういうのなら、ということで、その病院に入院。シャント手術を受けて透析が開始された。

 

 ところが退院後に通うことになった透析病院にて、透析中にしばしばイライラして看護師さんを困らせるようになった。またぶつぶつと独り言で、「変な虫が飛んでいる」と幻視を思わせる訴えもある。息子さん宅での生活にても、怒りっぽくなり、さらに「自分の服を隠された」と理不尽にお嫁さんにあたるようになった。さらに物忘れも増え、日中ぼんやりすることもあった。このため、困った息子夫婦は透析先の病院に相談の上、おばあちゃんを連れて受診した。

 

 最初、診察室に入ってくるときには、杖歩行で歩幅がかなり小さい。年齢的にADLはこのレベルの人なのかな?と思いつつ、挨拶すると、礼儀正しく応えてくれる。ただ言葉少なで「物忘れが増えたんでしょうか・・迷惑かけて」と元気がない。会話中は表情に動きが少ないように見えたが、この程度のお年寄りはよくいる、というレベル。手に小刻みな振戦もあり、身体的な問題もある様子。

 

認知機能検査をすると、長谷川式認知症評価スケールでは16点(30点満点)と確かに低下している。ただ検査中、いくぶんぼんやりとして、反応が遅い印象もあった。

 

 このような症状を聞くと、「レビー小体型認知症」ではないか?と考える精神科医は多いと思う。この疾患は、いわゆるパーキンソン症状(小刻み歩行、平坦な表情、振戦)と幻覚(幻視が多い)に、認知機能低下を伴う疾患である。変動性の意識障害、感情の不安定さや被害妄想なども伴っている(せん妄にも似ている)。

 

そう考えながら家族に話を聞いてみたが、もともとは活発で、頭がよく、表情豊かな人だったそうだ。それに比べると、受診時の顔つきも家族から見て、以前よりも表情の変化が少ないという。歩行を始めとした身体機能も明らかに低下した模様。具体的にいつからこんな状態になったかと聞くと、息子宅に来て総合病院に通院するようになってから、という。転居してストレスも大きい上に、透析を要する腎不全という大きな病気になったので、身体機能と共に、認知機能も低下したのかな?と初めは思った。

 

 ところが・・・である。

 

 つづく