精神科医療の覚え書き
精神科医療はDSM、各種治療のガイドラインは一応ありますが、それに囚われていると、適切な診断・治療やその評価ができません。これだけしか知らないなら、内科医が精神科診療をしても変わらない、ということになり、精神科医の存在価値がなくなるでしょう。さらに複雑な病態の患者さんや、所見を正しくとらないと治療に失敗することも増えます。
そのようなことにならないように、自分なりに治療の指針をまとめてみました。今の自分の考え方を整理しながら、判断に迷うときや、難しい患者さんに出会ったときのために。ただし、今後、新たな知識や経験を得ながら、バージョンアップしていくつもりです。
1.自分の基本方針を決めておく
・こういう人が来たらどうするか?患者が予想外の症状を呈する場合どうするか?
→ 疾患や病状ごとに速やかで適切な方針・薬剤チョイスができるよう準備
=悩むと治療がぶれる
→ ただし迷った時も、大きな失敗をしないような対応策も持っておく
2.精神科医の仕事
a. 診断、治療方針を決める、治療の評価をする
b. 治療の指揮を執る=全体的に患者の精神的治療だけでなく、生活全般の支援のために、PSWや看護師・心理士への指示
c. 薬物療法 =医師だけしかできない
→ 精神科医は薬については、とにかく熟知しておくべき =薬を間違うと大変なことになる
向精神薬の効果(適応外含め)、副作用、禁忌、相互作用、CYP代謝、特殊な患者(妊娠、高齢者、肝・腎機能障害など)、以外も、他科の薬の精神的作用(うつや精神病症状、せん妄、認知機能障害、など)
→ 薬剤師はあまり頼れない=臨床的な薬の使い方を知らない、禁忌や相互作用も添付文書に書いてある程度しか知らない =副作用の患者説明や、処方日数などのチェックを任せる程度しか期待しない
d. 精神療法
→ 医師の言葉は重いことを意識 =よけいなことを言わない
→ 治療関係を作って、治療意欲を高めることが重要
→ お悩み相談の患者も多いが、あまり時間をとられると仕事にならない
→ 時間がかかる患者や、ディープな心理療法は、心理士に任せる =医師はカウンセラーではない
◎神田橋先生による精神療法の心得
1.引き出す、2.妨げない、3.障害を取り除く、4.植え付ける(なるべく控える)
(精神科医必読!神田橋先生の名著)
3.観察力・所見の把握:重要
・十分に診る力がないと、病状の重さや治療効果判定ができない
→ よく診ずに話の内容だけ聞いてしまいがち =最初の一瞬の観察が重要だが、その後の変化に注意
→ 慣れると当たり前になるはずなのだが。
4.診察時の観察: 遠くから近くへ見ていく
a. 見た目:服、持ち物、姿勢、動き(手足、体感、頭など)、年相応か
b. 生理的状態(自律神経:重要) =顔色・肌艶・汗、筋緊張、振戦
c. 精神的な行動:落ち着き、注意(視線)、表情・態度(意欲、協力、過敏、鈍さ)、歪み
d. 話しぶり:口調のスピード、声の大きさ、抑揚、しゃべる量
e. 言語: 思路が適切か? 内容は了解可能? まとまりの良さは?(ただし普通の会話でも、理路整然と話せる人は少ないが)、患者の身になってイメージしながら聴く
→ 上記について、刺激前後での変化(反応)を観察(不必要なストレスを与えないこと)
→ 患者のしぐさのクセに注目し、ストレス時にどう動くか、などもよく見る
・ 観察しつつ、「(自分の知る)疾患・症状パターンと、得られた所見を照らし合わせ」診断する
→ 所見を次々得ながら、修正しつつの判断
5.環境設定調整 =最適な生活・就労環境を(これだけで良くなる人も)
a. 患者の身になっての希望 ←デイケアなど押し付けても続かない、仕事を休めない
b. 現実的な方針 ←現実的でない時は、折り合いをつけるべく話し合い。ただし無理と思われても、意外とできることも=リスク少ないなら、一度トライ
c. 医学的にみて、焦っての離職・復職や退院等、無理があるならしっかり止める ←つい許してしまいがち
d. 幻覚妄想などの大きな精神症状も、環境調整だけで良くなる人もいる
6. 初診の心得
・初診の場合、見立てと関係づくりが最優先
→以後も関係性について油断なく、入れ込みすぎに注意、ドロップアウトを恐れすぎないこと
・患者のもともとの社会適応能力を知ることで、現在の精神症状がどの程度のものか?評価できる
・初診では、患者は精神的にしんどい状態なので、できるだけ短時間で終えるよう意識
→ 治療関係を構築、必要十分な情報を得ながら、診断・治療方針を決定
7.診断の意味(神田橋先生)
a. 見立てて、治療するための診断:病名が不確実でも、治療方針を決めるため
b. :医学的カテゴリーとしての診断:疾患分類
c. 患者への説明のための診断:正しいものでなくてもよい、患者が治療に前向きになれるように