「あとの10%は、誰なの?」

「やっぱり、なおみかな~?」

「あ~、なおみさんって、のり君と同棲していた人だよね?」

「そうなんだ。
 オレさ、こんな事言ったら、梅子さんに悪いんだけれど、
 なおみとは、本当に結婚したかったんだよね。
 どうして、なおみに、あんな事を言ってしまったのか、
 頭がおかしく成っていたとしか、思えないんだよね」

「のり君、なおみさんに何て言ったのよ?」

「…オレはさ、
 他に好きな女が出来たから、オレとは別れてくれ。
 って、そう言ったんだ。
 なおみの気持ちを考えると、今でも涙が出て来る」

「それって、摩矢子さんのせいなんでしょ?」

「いや、そうじゃ無いよ。
 摩矢子さんに夢中に成ってしまった、オレが悪かったんだ。
 オレが、馬鹿だったとしか、言い様が無いんだ」

「なおみさんとは、今でも連絡は取っているの?」

「うん、まあね。
 オレが今、住んでいる湯河原のマンション有るでしょ。
 実は、名義は、なおみの名義に成っているんだ」

「えっ、そうなの?」

「ああ、そうなんだ。
 オレがさ、なおみと縒りを戻したくて、
 友人に無理を言って、かなり無理をして、
 なおみの名義に、替えて貰ったんだよね。
 なおみは、あの部屋が、本当に好きだったからね。
 でも、無理だった。
 なおみは、金沢に行ってしまった」

「なおみさんって、いくつなの?」

「今は、29歳。
 だから、もう後が無いんだよね」

「後が無いって、どう言う意味なの?」

「なおみは、何を思ったのかは分からないんだけれどさ、
 芸者さんに成りたいって言って、金沢に行ったんだよね。
 金沢芸者って、20代までならば、
 やる気が有って、お稽古を積めば、芸者に成れるんだって」

「それで、芸者さんに成れたの?」

「いや、その練習生って言うかさ、見習いって言うか、
 それに、して貰う事に成っていたらしいんだけれどさ、
 そもそも、3~4年前から、芸者さんの仕事が、
 成り立たなく成って来ていて、
 それで、取り消しに成っちゃったらしいんだよね」

「それで、今は、どうしているの?」

「カフェみたいなところで、アルバイトをしながら、
 師匠のところに行って、お稽古をしているらしい」

「のり君さ、援助をしてあげなよ~」

「たくさん、しているって!
 もしも、ダメだったら、いつでも湯河原に、
 戻ってくればイイって、言っているしさ。
 もしも、戻って来る気が有るのなら、
 オレと、梅子さんは、すぐに他のところに移るって、
 言ってもいるんだしさ」

「ねえ、その話し、奥さんは知っているの?」

「もちろん、梅子さんには、全部、話して有るよ」

「なおみさんは、戻って来る気は無いの?」

「う~ん、そこが、良くは分からないんだけれどさ。
 少なくとも、今はそんな気は、無いみたい。
 マンションの名義も、オレか、梅子さんの名義に、
 替えて欲しいって、言ってるしさ」

「のり君は、名義を、もう一度、替えるつもりは、無いの?」

「いや、全然、無いよ。
 けっこうさ、法の網目を掻い潜って、無理をしたんだよね。
 もう一度、そんな事をするつもりは無いんだ。
 それにさ、せいぜい、3000万か、
 4000万くらいの事でしょう?
 なおみには、それくらいの事をしても、
 まだ、全然、足りないと思っているしさ」

「のり君ってさ、結構いろいろ、抱えているだね~」

「由香さん、ごめんね。
 せっかくの、お誕生日なのに、
 こんな詰まらない話しばっかり、しちゃってさ」

「のり君のせいじゃ、無いよ。
 わたしが、話してちょうだいって、頼んだんだからさ」


(続く)
 

 

 

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