三題噺。お題「音楽」「迷信」「新しい記憶」で「悲恋」のストーリーを。

 彼女が僕に気づいた。目の前の女性は、僕に対して朗らかに笑う。そう、彼女の笑顔が、僕は好きでたまらないんだ。
「はじめまして! これからお世話になります!」
 違う。
 そうじゃない。
 僕たちの挨拶は、そうじゃないだろう。
「……あの、どうかしたんですか?」
 つい無反応になってしまった。僕はあわてて返事をする。感情を伴わない、下手をすれば発声さえ伴わない、表面的な意思表示。
「そうですか。それじゃあ挨拶代わりに、一曲聴いて下さいよ!」
 僕のささくれだった気持ちにも気づかず、彼女は歌い始め、踊った。
 思い出がよみがえる。アイドルを目指す彼女との二人三脚。コンサートにお客さんを呼べないと、泣いていた彼女。僕の差し出した缶コーヒーに、涙を浮かべながらも笑ってくれた彼女。
 トップアイドルとして、最高のコンサートを一緒に成功させた彼女。
 そのときの彼女と、歌声だけは変わらない。
「あー、緊張した。これからよろしくお願いしますね。プロデューサー♪」
 少し肩を上下させながら、彼女はハイタッチを求めて手を挙げる。僕はその手のひらを、指先でつついてやる。
 そして、彼女は僕の前から去るのだ。次に会いに来る、その時まで。
 切ない。
 僕たちの関係は、リセットされていいものじゃなかったはずだ。
『たかがエンディングを迎えた程度で』、なかったことになっていいものじゃないはずだ。
「二巡目なんて……やってられるか……!」
 僕は席を立った。  ディスプレイには『GAME OVER』の文字が躍っている。
 やめだやめだ。僕は旅に出る。
 日本一高い山の、その麓へ行く。
 自殺志願? そんなわけがない。そんなことをしたら、彼女と生きられないじゃないか。
 富士の樹海。そこには、二次元への扉があるという。
 そいつを見つけた者は、二次元世界の住人になれるんだ。
 僕は、そいつを見つけてみせる。 そして彼女と生きるのだ。
 自動ドアをくぐると喧噪は去り、寒さが身を包む。
 星が綺麗だった。
 この時間もまだ、新幹線は動いているだろうか。
「待ってろよ……」
 白い息を吐きながら、僕は駅に向かった。
(つづかない)
アイドルマスターをプレイしたことはないが、二巡目は切ないだろうなと。
このお題でもう一つ書いていたが、そちらはボツ。
 書いていた文章を自分で再現しようと試みるのは、どうしても最初の勢いが削がれるから避けるべきなのだが。携帯でポチポチやっている最中にバッテリが切れてしまったのだから仕方ない。pomeraで再度書き始めてみよう。割と純然とした日記。結論もオチも準備していないのでそのつもりで。

 割と適当なタイミング、しかし一ヶ月前の共演者の芝居を観に行くほどは早くない時間で仕事をあがった。最近週末は遊びほうけているからのんびりしていないし、今日は帰って一人ビールでも飲むか、と、それなりに上機嫌で職場を出た。
 階段を降りきってビルを出ようとしたところで、思い直して本屋に入った。言うほど本を読むわけでも買うわけでもないが、職場の麓に中規模書店のあるこの環境は気に入っている。
 自動ドアをくぐると控えているのはジョブズのワゴン。スティーブジョブズの関連本が山積みになっている。半年前はもしドラワゴンだったのを思えば、ビジネスマン向け書店として相当マトモな眺めになったと思う。
 ただ、個人的にはこの前読んだ『驚異のプレゼン』でお腹がいっぱいなのでスルー。ジョブズ関連本を手当たり次第読みあさるほど、「意識の高いビジネスマン」ではないのだ俺は。
 そして目的であった娯楽書籍のコーナー……ごまかすのは良くないか、マンガのコーナーへ向かった。
 読む量ががくんと減ったとはいえ、マンガの新刊コーナーを月数回くらいはみて、情報を仕入れたいと思っている。
 しかし途中で、こんばんは栞子さん。
 文庫コーナーの一角には、『ビブリア古書堂』のワゴンができていて、同じような構図で左側を向いて本を見下ろすヒロインの表紙絵が、二巻分二枚、引きのばされて大きなPOPになっていた。おめでとう作者の三上さん。ビブリアはよく売れているようだよ。
 しかし本当に綺麗な表紙絵なんだよな。アニメグッズのポスターが欲しいと思ったことがない自分でも、大判POPをついつい欲しくなってしまうような出来だ。
 ……ただ、あのヒロインは劇中描写だと常に眼鏡をかけているはず。なぜ表紙絵に反映されなかったのか、不思議でならない。眼鏡っ子需要はあるだろうに。
 ガンダムのジ・オリジンが最終巻なのに驚きつつマンガ新刊を見ていたら、『かみあり』という作品が目に留まった。試し読み小冊子が転がっていたというのも大きい。愛嬌があってノリがよい作品のようだ。そのうち買ってしまうかもしれない。
 適当な欲望は健康の証。なにも買い物はしなかったが、気持ちよく本屋を出ることができた。

 そして、駅までの徒歩2分の間に、歌声が聞こえてきた。品川駅は結構な頻度で歌っている人がいる。
 最近友人のライブに足を運ぶようになってから、そういうのに足を止める頻度が高くなっている。前回は男性のギターデュオだったが、今日は女性だった。
 声が好きで、足を止めた。
 人だかりができかけているが、本人の正面は空いていたのでさっさと陣取る。オーソドックスではあるが切ないラブソングを、とても澄んだ声で歌っていた。どの程度良かったかというと、3,000円のCDをその場で買おうか少し迷ったくらい。それなりに枚数を売っている人のようなので、レンタルCDにあれば迷わず借りて帰るつもりだったが、TSUTAYAの取り扱いにはないようだった。
 2曲聴いたところで挟まった『休憩』で、寒さと空腹に負けて駅へ向かってしまったのが、今となっては少し悔やまれる。チラシはもらってきたので、本人のサイトにアクセスしてみよう。都合の合うタイミングでライブがあれば、行くかもしれない。息吹唯さんね。覚えておこう。

 そんな感じで、22時頃には帰宅できた。
 なんとも地味に充実した帰路であった、という話。
ずっと部屋の片隅で転がしていた、『ビブリア古書堂の事件手帖』を、ついに読み始める。

9月の台風の時、電車ストップ対策として駅ナカで買った本だ。
その日は『電車のなかで数時間待たされる』と想定して本を二冊買ったのだけれど、結局は電車が全滅してオフィスで仕事をする羽目になったから、長々電車で過ごしたわけでもなく、帰りでは一冊も読みきれやしなかったのだ。
あとは図書館の本を読んだり参考書を読んだり脚本を読んだりで、なかなか順番が来なかった。

なんで読んでもいない本についてこうも長々書くのかと言えば、前から知っていた作家の出世作になっているようだからだ。
本作は皆様お馴染みの大人向けライトノベルレーベル、『メディアワークス文庫』の作品だ。作者、三上延の作品は、これまで『電撃文庫』で読んでいたんだよな。『アルカミレス』はやや残念だったけれど、『シャドウテイカー』は素晴らしい地味さで、結構好きだった。「主役級がてんで頼りにならないバトル小説作家」、という作者評をどこかで読んだ気がする。
この作者の作品の、シリーズをまたぐ特徴として、主役達がいい感じにone of themで、圧倒的強さを誇らないところがある。そして脇役の一般人に存在感のある展開が好きだ。

地味な作品を地味に書き下ろしていた、地味に好きだった作家の本が、品川の本屋の一番目立つ所で派手に平積みになっているのは、訳もなく嬉しいのだった。

……さーて、面白いといいな。