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六本木ヒルズの52階までエレベーターで昇り、そこからエスカレーターで1つ階を上がると見えてくるのが「森美術館」。まず目を引くのは白を貴重に鮮やかなピンクで描かれた「LOVE」の文字。現在、この森美術館では六本木ヒルズ・森美術館の開館10周年を記念して「LOVE展」という企画展示を行なっている。スペースは5つのセクションで区切られており見進めていくにつれて、より客観的に「LOVE」というものを考えることができるようにつくられている。僕はそのインパクトに圧倒され館内に足を進めた。少し曲がった先に見えたのは白く開かれた空間。そこにはポスターのメインとなっている金色のハート型オブジェがありその輝きと圧倒的な質量に思わず息を呑んでしまう。第一章は「愛ってなに?」というテーマ。ハートの形やLOVEという文字を使った視覚的に分かりやすい展示物が多く並んでいる。僕は一つ一つの展示物を様々な距離から見てみた。普段目にすることのないアートばかりで想像が掻き立てられた。白く明るい部屋から足を進めると今度は途端に黒く真っ暗な空間に。そこでは強い光で一瞬映し出されるLOVEの文字によって視界にLOVEの文字が残り続けるといったものや、リカちゃんハウスを等身大の大きさに拡大し「カワイイ文化」というものに疑問を投げかけるもの、ネオン管で描かれた愛の言葉など暗いところならではの展示品が並べられていた。また壁面にはあらゆる分野の著名人がのこした「愛についての言葉」が日本語と英語で書かれている。「人生は花、愛とは蜜だ」というようなニュアンスの言葉が書かれていたのが印象に残っている。その先にはやくしまるえつこのサンプリング音声が歌になって聞こえてくる空間が。まるでボーカロイドのように。これは観覧者がマイクに愛に関係すると思われる言葉を言うと、それに関連したコトバをデータベースから引っ張り出し、やくしまるえつこの声で即興の歌を作り再生するというものだった。やはり機械的な音声だったがやくしまるえつこの柔らかな声質のおかげもあって、いくらか聴きやすいように思えた。第2章は「恋するふたり」。男と女の二人を描いた絵画・彫刻が展示されている。ここも照明の少ない空間だ。有名なシャガールの絵画やロダンの彫刻が置いてあり心が弾んだ。目の前で見る作品は小さいながらもその存在感は力強く感じられた。特にロダンの彫刻のもつ深い 黒光りには感動した。次の部屋に入ると持ち帰っていい紙が置かれていた。それには別れのメールが書かれていた。第3章は「愛を失うとき」。愛とは力の原動力ともなったり人と人とを強く結びつけたりする力もある。だが、失うことで憎しみや嫉妬にもつながることのあるものだ。第三章では愛の複雑さ・難解さを掘り下げるような展示があった。ここに置いてあった失恋相手の幻を見ているかのような男の絵には引きこまれた。また、死角になるように配置された空間では映像展示も行われていた。その映像ではアーティスト自ら出演し、愛を長続きさせる方法を語っていた。見ている人が多くいたため僕はよく見えなかったのが残念だ。次の部屋は明るく、作品には男女というより夫婦の作品が多くなった。第4章は「家族と愛」。「家族とは生まれてすぐに出会う愛の形であり、最後に再び持つ愛でもある」と入り口の説明に書かれていた。ここの展示では愛という欲求ではなく愛が生む絆を表現した作品が多いように感じた。しかし、素敵な意味での絆だけではなく、遺伝によって生まれた血族による人種問題に言及するような作品もあった。また、家族の絵だが制作された時代背景を紐解くことによって、本当に伝えたいことが見えてくるようなものもあった。「家族=あたたかくて素敵なもの」というステレオタイプがあるが、実際の家族はそうではない。だからこそ、色々な時代背景や心情が混ざり、複雑な作品が多く生まれるのだと思った。そして、最後の第5章「広がる愛」の展示スペースにたどり着く。ここにある作品は未来や平和、概念を描いたLOVE作品が置かれている。見どころと言われているのが草間彌生の愛をテーマにした新作「愛が呼んでいる」だ。中にあるのは、水玉模様で複雑な形をした突起物。これが地面や天井から無数に生えており、カラフルに光るのだ。また、壁は鏡張りになっており、不気味とも言える異質な空間が広がっている。万華鏡のように空間が広がっているといえば想像しやすいかもしれない。スピーカーからは草間本人による詩の朗読が流れている。ここは数少ない写真撮影が可能なスペースであったため、僕も何枚か写真を撮った。だが、この空間は空間全てで一つの作品なのだ。写真で見たところで雰囲気はまるでつかめない。これは自分の足で訪れ、全身で鑑賞しなければ醍醐味である異空間さが味わえないため、ぜひ訪れてほしい。出口付近には合成音声再生ソフトである「初音ミクの」作品が世界を結ぶ新たな愛の形として取り上げられていた。確かに多くの作品がクリエイターによってつくられ世界的に関心が持たれているボーカロイドは、愛を表現する新たな方法といってもいいかもしれない。現に、展示空間のプロジェクターから映しだされているのは海外で行われた初音ミクのコンサート映像なのだが、観客が皆緑のペンライトを振っているのだ。この姿には驚いた。なんせ投影された映像のコンサートに日本人だけでなく、海外の人までもが楽しんでいたからだ。LOVE、愛とは僕達の身近に存在しているのに考えることはそう多くはない。仮に考えたとしても、ネガティブなことや主観が多く混ざってしまうのではないか。だが、この「LOVE展」のように、様々な人々の考える愛の形が多様なジャンルで表現され、それを一度に体験できる経験、というのはとても貴重であり有意義であると思う。僕自身、考えてみたいことが多く生まれた。この「LOVE展」は9/1まで行われている。ぜひ一度足を運び、客観的に愛について考えてみてはどうだろうか?


