『マリの話』2023,高野徹



昨年から観たい観たいとずっと思っていましたが漸く上田映劇で鑑賞できました。そして前評判の通り、素晴らしい作品でした。それにしても今年に入ってまだ2か月弱。続々と大挙して傑作ばかりが押し寄せてきて大忙し。昨年の凡作駄作だらけの低調さが嘘のようです。
 
四部構成。徹底的にダイアローグの映画。そしてやたらとおさんぽの映画。というか映画とは会話とおさんぽに尽きるのだと言わんばかりの太々しさが内包されているように思います。
 
それにしてもここのところエリセの新作といい、『ママと娼婦』のユスターシュといい、この『マリの話』の高野といい、ガッツリ硬派なダイアローグ作品を観る巡り合わせだったのですね。
 
さて本作。何より圧巻なのは第三章の縁側のダイアローグです。この章の前半部のふたりの出会いから神社を経由して自宅へ至るおさんぽシーンも素晴らしいのですが、なんと言っても自宅縁側のダイアローグ!出鱈目っちゃあこれほど出鱈目なダイアローグシーンは、ラブシーンや戦場の戦闘シーン以外でほとんど観たことがありません。そのぐらいぶっ飛んでます。これ観るだけでも本作品、鑑賞の価値があるというものです。
 
「おさんぽ」から帰ってきたふたり。足に障害のあるフミコは帰宅後縁側に座布団を敷き横たわっています。寝ながら庭を眺めるマリに話しかけます。この時ふたりは庭の方向、つまり同一方向を向いています。キャメラは屋内から庭方向に向いており、固定されています。すなわち二人の背面が映し出されているのです。
 
やがてフミコはうとうとうたた寝を始めます。マリは自分のコートをそっとフミコに掛けてあげます。フミコは身体を反転させて今度は顔を庭から室内側に変化させるのです。すると反転して空いた縁側のスペースにマリが腰かけるようになります。つまり庭側に顔を向けるマリ、室内側のフミコ。寝転がるフミコの身体の反転によって、外に向くマリ/内に向くフミコという大きな変化が発生するのです。
 
更にここからマリも縁側に寝転がるのです。ほんともうここからはひたすら驚愕します。もしかしたら老婆とアラサー女の二人が寝転がってくんず解れつの異様とも言い得るダイアローグは、高野自身が意識しているとはとても思えないけれど、ハリウッド50年代の作家たち、中でもニコラス・レイとアンソニー・マンに出てくる登場人物たちの寝転がり方のDNAを遥かに受け継いでいるのではないかと錯覚してしまいそうです。

日本の才能ある若手監督!今後必ず出てくる逸材です!

必見!

  予告編



  作品データ


※以下出典根拠映画ドットコム

監督
高野徹
脚本
高野徹
丸山昇平
プロデューサー
高野徹
撮影
オロール・トゥーロン
照明
北川喜雄
録音
松野泉
整音
松野泉
スタイリスト
雪尚人
編集
高野徹
音楽
橋本三四郎
助監督
大美賀均
原田真志
三浦博之
ダンス監修
鈴木竜
キャスト
成田結美
ピエール瀧
松田弘子
戎哲史
パスカル・ボリマーチ
デルフィーヌ・ラニエル
製作年
2023年
製作国
日本
配給
ドゥヴィネット
劇場公開日
2023年12月8日
上映時間
60分

  解説


フランス映画「キャメラを止めるな!」の成田結美、「凶悪」のピエール瀧、「ドライブ・マイ・カー」の松田弘子が共演した恋愛映画。

海辺の町で脚本を執筆しているスランプ中の映画監督・杉田は、偶然出会った若い女性マリに恋心を抱き、映画に出演してほしいと声をかける。マリは戸惑いながらも、情熱的で憎めない杉田のキャラクターにひかれ、一緒に映画を作りはじめる。しかしある日突然、杉田が失踪してしまう。喪失感に苦しむマリは、愛猫を捜す自由奔放なフミコと知り合い、人生を変えるような対話をする。自身について見つめ直したマリは、小さくも大きい一歩を踏み出すことを決意する。

監督は、濱口竜介監督作「ハッピーアワー」「偶然と想像」に助監督として参加し、2017年に手がけた短編映画「二十代の夏」がフランス・ベルフォール国際映画祭でグランプリ&観客賞を受賞した高野徹。本作で長編初メガホンをとり、夢と現実が入り混じる大胆な構成で描き出す。

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