犬の散歩をしていたら、公園横にいた、小学校4年生くらいかと思われる女の子から、声をかけられました。

 最初は、その子の家でも猫を飼っているとか、近所で飼えなくなった犬を引き取った、というような話をしていました。

 年齢の割には知識が豊富で、しつけに関するアドバイスみたいなこともどんどん言います。

 この年齢なら、知識をひけらかしたいのかなと思い、黙って聞いてあげました。

 

 だけど、犬を飼い続けて40年近い私にとっては、ちょっと首を傾げるようなことも言っていました。

 たとえば、散歩のときハーネスをするのは身体に悪いので、散歩に行くときは首輪でないとダメだ、と言いました。

 普通は逆だと思います。

 首輪だと、急に引っ張ったときなどに首を痛める可能性があるので危険です。

 

 近所の人が飼えなくなって引き取った犬がトイ・プードルらしいのですが、

「こんなに小さい」

 と言って、地面から10センチくらいの高さを示したりしました。

 いくら1歳とは言え、足の長い犬種だけに、体高10センチもないトイ・プードルはいないでしょう。

 

 心の中ではちょっとおかしいと思っても、初めて会った知らない小学生に、否定的なことは言わない方がいいだろうと我慢していました。

 しかし、おとなしく聞いてあげていたら、10分たっても話をやめようとしません。

 だんだん、困ったなと思い始めました。

 10年くらい前の女の子のように、後を付いて来たら嫌だな、とも思いました。

 

 

 事件が起きたのは、そのときです。

 

 公園横のそこには、自動販売機がありました。

「今日は最悪で、この自動販売機で買おうと300円入れたのに、商品も出て来ないし、返却レバーを押してもお金が返って来ない」

 と、その女の子が言い始めました。

 

 この時点で既に、少しおかしいなとは思いました。

 まず、公園横にありますが、管理しているのは公園横にある小さな薬局です。

 カロリーメイトとか、経口補水液などが主な品揃えで、子供が好んで買いたいようなジュースなどは入っていません。

 それに、商品が出て来ないことがあったとしても、入れたお金も返って来ないなんて、そんなことがあるでしょうか。

 細かいことを言うなら、友達の分も買おうとしたと言いますが、まずは自分の分だけお金を入れるものではないでしょうか。

 

 

 でも、子供からそうやって言われたら、

「とりあえず、お店の人に言ってみたら?」

 と言わないわけにはいきません。

 そうしたら、

「この間も、ここで100円入れたらやっぱり出て来なくて、お姉さんに言って100円返してもらったんだけど、今日は男の人しかいなかったから、怖くて言えなかった」

 と言い出しました。

 

 そのお店、「ほぼ女の人しかいないお店」なので、それもおかしいなと思いました。

 

 あと、2度引っ越しをしているとか、いま住んでいる場所が隣の地区なので、この公園に来るのは今日で2回目だとも言っていました。

 公園にまだ2回しか来たことないのに、その2回とも、公園横の自動販売機で飲み物を買おうとして、2回ともお金を入れただけで商品も出ない、返却ボタンを押しても返って来ない。

 そんなことがあるのだろうか、かなり疑わしい話だと思いました。

 

 それでも、一度言いかけたことだし、そのときちょうどオーナーの奥さんが入り口のところにいたので、とりあえずその話を伝えました。

 奥さんは自動販売機の鍵を持っていないので、明日、また来てくれないかという話になりました。

 本当のことを言っているか分からないだけに、奥さんにも申し訳ないなと思いました。

 

 やはりと言うか、その後もずっと私の後を付いて来ようとしました。

 たまたまアイスを買いに来た同級生の男の子とすれ違い、その子に話しかけたので、チャンスと思って慌ててその場を離れました。

 そのときも、

「何を買ったの?」

 はまだ分かりますが、

「自分のお金で買ったの?」

 ときいていました。

 この質問もちょっとおかしいな、もしかしたらお金に執着のある子なのかなと思いました。

 

 2日後、お店の前を通ったら奥さんがいたので、

「この間は変な小学生を連れて来てしまってすみませんでした。言ってることはかなり怪しいなと思ったんですが」

 と謝ったら、

「やっぱり疑わしいと思った?」

 ときかれました。

 

 奥さんは知らなかったそうですが、スタッフに確認したら、本当に以前、その子に100円を渡したことがあるそうです。

 それを聞いた私は、1度成功したので、今度は100円から300円に値段を釣り上げたのかなと思ってしまいました。

 

 そして、同じ小学校に通う子供を持つお母さんたちにきいてみたところ、

「言いたくないけど、あの子には気をつけた方がいいわよ」

「大人に取り入るのだけは、すごく上手な子ね」

 という話が出たそうです。

 

「2回目まではお金を渡したけど、3度目はもうないわ。

 こんなこと、本人のためにもならないからね」

 と言っていたので、奥さんもその子が嘘をついたと思ったのだと思います。

 実際、女の子から申し出があったとき、奥さんは自動販売機に100円を入れましたが、何度やっても返却レバーを押せば、ちゃんと100円は戻って来たので、嘘をついていると思われても仕方がないと思います。

 

 

 本当にその子が嘘をついたという確証はありません。

 だけどもし嘘なら、金額は100円とか300円だとしても、これは立派な詐取、詐欺だと思います。

 小学生なのに、平気で知らない大人相手に嘘をつくのも怖いですが、1回目が100円で2回目が300円なら、今後もっと大きな金額を騙し取ろうとするかもしれません。

 この子の行く末はどうなっていくのかと考えると怖くなります。

 

 実を言うと犬の散歩とは言え、何があるか分からないので、数百円が入った小物入れは持っています。

 どういうケースかにもよりますが、もしもお金を落としてしまったとかで困っている子供がいたら、100円や200円ならあげてもいいと思っていました。

 

 でも今回の事件で、子供だからと言って、信用してお金をあげることが必ずしも正しいのか、いいことなのか、分からなくなりました。

 今回のように押しの強い子なら、1度お金を出してあげたら、次からもねだられ続けそうな気もします。

 それこそ、自動販売機近くで待ち伏せするくらいのことはしかねないと思いました。

 

 とりあえず、お店の奥さんには、私がその子から聞いたこと、怪しいと思った理由を全て伝えました。

 次回からは、簡単にお金を渡したりせず、何らかの方法を取ることでしょう。

 私も、しばらくその公園の方へは散歩に行くのをやめようと思います。