母はよく、「口の端が痛い」と言うが、数日前から「口の中が痛い」と言い出した。
 口内炎でもできたのか。
 
 知人で、
「私は口内炎ができたとき、チョコラBBを飲むと一発で治る」
 という人がいた。
 その話を聞いて初めて、ビタミンBが不足すると口内炎になる、と知った。
 
 子供の頃の病気がもとで、超偏食、野菜が食べられない私は、40歳過ぎたらたびたび口の中が痛くなるようになった。
 ビタミン不足は確実なので、それ以来青汁が欠かせない。
 形のある野菜を噛んで飲み込むのはとんでもない苦行だけど、青汁は液体だから意外と飲めるのだ。

 しかし、満足に食事も摂れないほど高齢の母は、既に青汁も飲んでいる。
 青汁で治すのは無理だ。
 
 そしてとうとう、
「口の中が痛くてごはんも食べられない」
 と言い出した母。
 
 そんなに痛いなら、と病院へ連れて行った。
 口内炎に貼る薬が出た。
 
 青汁で口内炎が治ってしまった私にとって、口の中に貼る薬なんて初めての経験だ。
 貼るときに表と裏があり、間違えたらいかんと言うので、母の代わりに私が貼ることにした。

 これが、思いがけず大変だった。
 
 口内炎ができているのは、舌の裏側、意外と奥の方。
 薬を貼ろうとしても、
「舌を出して」
 と言うと、下向きにカーブした状態で舌を出す。
 
「こういうふうに、舌を上に向けて」
 と指示すると、舌がぱっと上を向く代わり、顎も付いてくる。
 舌先以外は下の歯で隠れてしまうので、患部を見ることも、薬を貼ることもできない。
 
「貼れないから、口を開けて」
 と言うと、ぱかっと口は開くけど、その瞬間になぜか舌が奥に丸まって引っ込んでしまうのだ。

「そうじゃなくてさぁ。こういうふうにできないかなぁ?」
 口を大きく開け、舌を上に向け、前に突き出す、という見本を私が見せる。
 私にはできるが、これが母にはどーーーーーうしてもできないあせる
 
 患部は相当奥なのに、舌先まで痛いもんだから、舌が奥に引っ込まないよう指でつかもうとすると、
「痛い痛い痛い!!
 って叫ぶし汗
 
 悪戦苦闘の末、実際の口内炎よりも少し手前に貼れてしまった。
 1日1回~2回の薬なので、
「仕方ない。寝る前にもう1回貼ろう」
 ということにした。

 母がお風呂に入ろうとしていたので、
「お風呂から出たら貼るから。ここ(リビング)へ来てよ」
 と言ったら、
「もう貼ったよ」
 と言う。
 
「どこへ!?
 と口を開けさせたら、表と裏は間違えてなかったけど、舌先に貼ってるし!
 全然違うとこに貼ってどうすんだビックリマーク
 効かねえよ、それじゃ汗
 
 しかも、しかもだよ?
 貼った薬が取れると行けないから、貼ったらしばらくは食事しちゃダメ。
 水を飲むのでさえ、
「5分くらいは我慢してください」
 と、薬剤師さんが言ってた。
 
 なのに!
 貼るのと同時にキャラメル舐めてるってどういうことやムキー
 
 患部とは全く違う場所に貼ってしまったせいで、薬が効かず、
「夜中から痛くて寝られなかった!」
 と文句を言う母。
 しかし、自業自得やで、それは。
 
 昨夜は全く違う場所に貼ってしまったので、
「1日2回まではいいって薬だから、朝も貼っておこうか。
 悪いけど、ちょっとつまむよ」
 私の手で母の舌をつまんで引っ張り、患部に薬をぎゅっと貼り付ける。
 
「あーーっ! 痛たたたたっ!
 思わず叫ぶ母。

「痛いでしょ? ここが、口内炎ができてるところなんだよ。
 舌先に貼ったって、貼ってる場所が全然違うから、薬も効かないんだって分かるよね?」
 
 そのときは、うんうんうなずいてたけれど。

 お昼ごはんの後、なんかガサガサやってると思ったら、勝手にまた舌先に薬を貼っていたびっくり
 そこに貼ったって、効かないってば!
 それ以前に、1日1回か2回の薬じゃ!!
 朝貼ったんだから、寝る前に貼りたかったら、昼間は貼れんのじゃあ~~~ムカムカ
 
 まったくさぁ、90歳近くなると、何やるか分からんから恐ろしいわぁ。