中学1年生の夏。
部活の朝練に行くため、私は6:21発の電車に乗って学校へ向かう。
私の通う中学はバスケの名門校。本気でバスケをするために、自分で選んで入学した。
部活での上下関係もかなり厳しい。
「1年は30分前に来てネット張っとけよ」
入部したその日にそう言われた。
この電車を逃したら次は7:00発、
何がなんでもこの電車に乗らないといけない。
なのに私が家を出たのは発車3分前。
雨が振っているけど傘さしてたら間に合わない。
濡れているコンクリートの道をダッシュして駅へ向かった。
平手 「はぁ、はぁ...」
なんとか電車へ飛び乗った。
酸素の薄い満員電車。全力で走った後に乗るのは息が苦しい。
雨のせいなのか汗なのか、私の制服も髪もびしょ濡れだった。
息を整えようと深呼吸すると、
いろんな人の香水や汗が混ざったにおいのなかで、爽やかなシトラス系の匂いを見つけた。
近くに立っていた女子高生。
茶髪のショートカットで、背が高くて綺麗。
小さい黒リュックとアディダスのエナメルバッグを肩にかけている。
この匂いはその人だと思う。
難しそうな数学の教科書を、指でなぞりながら読んでいた。
なぞらないと読めないタイプなのかな(笑)
彼女の可愛らしい一面を見て頬が緩む。
初めて乗った、改札から1番近い車両。
私はその日から毎日その車両に乗っている。
その夏から2年半くらい経った。
私は中学3年生になった。いわゆる受験生だ。
周りの友だちはみんな勉強におわれているけど、私には関係ない。
ずっと続けているバスケのおかげで、強豪校への推薦入学が決まっていた。
3年生になって部活も引退した。全国大会には行けたが目標だったベスト8には届かなかった。
もう朝練もない。
でも私は変わらず同じ電車の同じ車両に乗っている。理由はひとつだけ。
毎朝、私の斜め前で立っているあの人。
私より先に乗っていて、私が降りる駅よりあとの駅で降りるので、彼女がどこからどこへ向かっているのか全く知らない。
もう2年半も同じ電車で片想いしている。
夏の制汗剤のさっぱりした香りと、冬のほんの少し甘い香り。彼女について私が知っているのはたったそれだけ。
それなのになんでこんなにも好きなんだろう。
できることなら、このままずっとただ見ていたい。欲を言えば、話してみたいとか仲良くなりたいとか、思ってないわけではないけど。
もうタイムリミットが近いのはわかっている。私が彼女を最初に見つけたのは、2年半前。彼女はその間ずっと同じ制服で、同じ電車に乗っていたのだから、きっとあの人はいま高校3年生。
彼女が高校を卒業したら、もうこの電車で会うこともなくなってしまうだろう。
あと数ヶ月で会えなくなる。
私は焦り始めていたけれど、彼女との関係が変わるのはもうすぐだった。
続く