2018/09/23

時間が勿体無いと…気がついた…ふたり…

ふたつ…制覇しよう…と…お互いの時計を見る…

彼は…銀の文字盤に…茶色の革ベルト…

オメガの時計…

あたし・は…おお爺ちゃんが…高校入学祝い

買ってくれた…シンプルな銀のステンレスベルト…

ロレックスの時計…

おお爺ちゃんは…あたし・が…幼い頃から…

身に付ける品に…こだわりを持たせていた…

値段ではなく…品質を重要視しなさいと…

結果的に高額になっても意味があると…

時に講釈が長くなり…閉口する(笑)

ある日…笠家の他人祖母が…ドレッサーに置き

大切にしていた…キャンディ・ボックスを…

他人祖母のソファの上で…ベスと戯れていた…

あたし・は…割ってしまった…その音に気づき…

呆然と佇む…他人祖母の姿に…

あたし・は…下を向くばかりだった…

他人祖母は…毎朝…そのドレッサーに向かい…

化粧ケープをかけ…丁寧に髪を梳き…

器用にアップ・スタイルにする…

あちらの他人祖母は…決して自分でセットしない…

必ず…美容室に行き…先生と呼ばれる人に…

セットしてもらう…翌日は…なでつけ…という…

整えをしてもらう…幼い…あたし・は…

この違いが…不思議だったが… 

今では…理解できる…

本妻さん…と…お妾さん…の…違いが…

他人祖母は…自分の…こしらえを終えると…

ティッシュを敷き…床と化粧ケープに落ちた髪を

纏め始末する…そして…あたし・と…交代をして

化粧ケープを…あたし・に…掛け直し…

少し癖のある…あたし・の髪を梳かしてくれる…

そして…一本の黒ゴムで…クルクルと回し止め

ポニーテールにしてくれる…程よく締められた

髪は…一日中…解ける事がなかった…

何事も…塩梅と加減の良い人だった…

その化粧ケープは…あたし・が…小学生の時に

入っていた手芸クラブで習った品だった…

クロス・ステッチで…薔薇の花を五ヶ所…

刺した…終生愛用していて…刺繍糸が所々…

剥げていたが…丁寧に洗い…アイロンをあて…

大切にしていてくれた…

晩年は…病床の枕元にも置き…髪を梳いていた…

意識朦朧としていた…他人祖母を見舞いに行った…

ある日…キャンディ・ボックスの話題になった…

たった一度…恋した…

たった…ひとつ…の贈り物…

だった…と…遠い目をして語ってくれた…

あたし・には…あの日…愛しそうに…

ボヘミアのカケラを…ひとつ…ひとつ…

拾う他人祖母の姿を…

柔らかな眼差しで…そっと…見守る…

その人の姿が…確かに…見えた…

時は流れる…人は…その流れを…

とどめる事は出来ない…

それでも…たった一回の想い出を…

心に刻む事は出来る…

他人祖母は…秋風が吹く…あたし・が…

13歳の彼岸に…静かに…彼方の世に逝く…

あたし・は…化粧ケープを小さくたたみ…

薔薇の花一輪…他人祖母の左耳に飾った…

そして…あたし・は…美しい雫を…

流々と頬から首筋へ流した…