第78回 『雑談文學』
『ジャイアントコーン』
★ときどき無性に食べたくなるものがある。焼肉やハンバーガーやソーキそばや、アイスやケーキやプリンなど、そんなものだ。彼女もその日無性にジャイアント・コーンが食べたいと言っていた。ジャイアント・コーン? 塩と胡椒がきいた辛いやつ。ぼくが酒屋で買ってくると彼女はバリバリ食べはじめた。
『日曜日の幸福』
★日曜日のお昼ご飯にピザとコーラを注文してプロ野球を観戦しながら食べる。サイドメニューでサラダとポテトもつける。試合は巨人阪神戦で巨人が6対0でリードしている。夕方になると渋谷まで出かけてどこかのお店で中華を食べて家に帰る。帰ったら風呂に入って寝てしまう。そんな日曜日って幸福だ。
『食べるひと』
★明日は何を食べようか、と考えられることはとても大事なことだと思う。食べたいという願望が明日への活力を生み出す。思えばぼくは食事の後にすぐ次の食事のことを考えている気がする。でも人は食べることでほっとするし、寛容になれると思う。ご飯を食べて元気を出して、という科白がぼくは好きだ。
【初出】「twitter(雑談文學)」12.04.29
第77回 『雑談文學』
『吸血鬼』
★白石さんが吸血鬼になったのは五年前のことだ。七年務めた新聞記者を辞めて吸血鬼になった。色白で、細身で、短髪で、頬はこけている。取材で長時間立っていると貧血を起こしてしまうので、と白石さんは言う。現場で血を見るのも苦手ですし。じゃあ何でわざわざ吸血鬼になったのかはよくわからない。
『ジュース』
★夜中に桃ジュースが飲みたくなったぼくは自販機まで買いに出かけた。近所にお気に入りの自販機がある。機械の前では吸血鬼の白石さんがトマトジュースを飲んでいた。こんばんは、桃ジュースですか、いいですね。アタシも昔は好きでしたよ。白石さんは血が苦手なので毎晩トマトジュースを飲んでいる。
『メンチカツ』
★金曜日の昼休みに精肉店で揚げたてのメンチカツを買って、公園のベンチに座って食べる。袋からとりだしてソースもかけないでかぶりつく。衣はサクサクしていて、肉汁がにじみ出てくる。言うまでもないけれど、かなり味しい。金曜日の昼食に公園でメンチカツを食べるというのもなかなか素敵だと思う。
【初出】「twitter(雑談文學)」12.04.22
第76回 『雑談文學』
『K・カフカの変身・1』
★Kが本気で彼女を愛していないことは彼自身がいちばんわかっていた。彼は遠く離れた恋人の気持ちを自分に引き戻すために、あえて逆説的な方法でべつの女の子に気があるふりをしたのだ。しかし恋人には通じなかった。ある朝、Kは自分が一匹の蝿に変身していることに気づいた。まるでカフカのように。
『K・カフカの変身・2』
★Kが何度目醒めたところで人間の姿に戻ることはなかった。彼は何人もの恋人に自分の存在を知らせようとした。一人は彼を手で追い払い、一人は防虫スプレーをかけようとした。最後に知り合った女の子だけが彼の存在に気がついた。しかし彼は本当の恋人のもとへと飛び立った。彼女の名前をつぶやいた。
『さなえちゃん』
★さなえちゃんは自転車屋でアルバイトをしている。お父さんは外医の先生だ。さなえちゃんにはケンジくんという恋人がいる。ケンジくんは自転車が大好きだ。さなえちゃんとは自転車屋で出会った。去年の秋にレースで足を怪我してお父さんに治してもらった。車椅子を押しながら二人は恋人同士になった。
【初出】「twitter(雑談文學)」12.04.15