他人の夢の話ほどつまらないものはない。


所詮は夢の中の話だし
何かと長いし
大抵の場合オチもない。

とはいいつつ今回私は
私の夢の話をする。

他人に何と思われようと
私が何を話すかは私の自由だからです。



私がこれまでみたもので
一番よく覚えていて一番震え上がった夢の話をしようと思う。
もう何年も前のものだが、
あの夢のことは忘れはしない。



夜中、ふと目覚めると
部屋の中に気配を感じる。

真っ暗な部屋の中に、何かがいる。

足元に黒いかたまりがみえる。

闇に紛れる大きな身体とそれに似合わぬ小さな頭、
そして鋭く尖ったくちばし。

カラスだ。

暗闇に目が慣れてくる。
私は気づいた。
部屋の中のカラスは一羽だけではない。

ベッドの柵に、床に、布団の上に、枕元に、部屋のあちらこちらに、
数えきれない、いや数えたくもないが、
とにかく奴らは平然とそこにいた。

ひとつの空間をこれだけのカラスと共有しているという事実に
私はどうしようもなく震え上がり
身動きがとれなかった。



はい、オチはない。

ただただ怖かった話である。


あと私がよくみるのは
歯が抜ける夢。
歯がボロボロと崩れるように、
それも一本や二本ではなく
抜けていく。

歯茎が悪いのか歯が悪いのか。

とにかく、目覚めた時にいつも
自分の歯がまだ健康に生えていることに安堵するのである。


つまらない夢の話を、しかも悪い夢を
何故今思い返しているのかというと

それはつまり
幸せ実感効果を得るためである。


現実世界で、
私の部屋の中にカラスが入ってくることはない。
歯もきちんと生えている。

夢を含めこれまで出会った最悪の状態には
まだ至っていないのだ。


今こうして無事にいること、
たとえ毎日がつまらないと感じてしまうようなものであっても
それはどうしようもなく幸せなことである。



カラスのいない室内。
歯のある口内。

ありがとう、私の平穏無事で小さな幸せ。

ありがとう。