奇跡のピアニストは、思ったよりもずっと小さな方だった。

高校の頃から一度生演奏を聴いてみたいと思っていた

フジコ・ヘミングさんのソロコンサートに行ってきました。

篠笛とピアノの世界はそれほど繋がりがないように思えますが、

ピアノは少し習っていたこともあり、私にとって身近な楽器のひとつです。

実は今年は彼女に密着したドキュメンタリータッチの映画を観に行き、

本も買いました。だからチケットが当たったときはすごく嬉しかったのです。

JR八王子駅にほぼ直結して数年前にできた新しいオリンパスホールは

約２０００人ほど入れる大きなホールで、音の環境にも定評があるのでさらに楽しみであり

今年の下半期はこの日を目標に過ごしていたといっても過言ではありません。

プログラムを開くなり、よく知られた曲ばかり並んでいて、

有名な方はこういうとき難解な曲を選ぶのではないのか、と驚きました。

決して簡単な曲というわけではなく、２０００人の観客の中には

ピアノを弾くことを仕事にされている方もいらっしゃるであろう中で

知っている曲を弾いて下さるというのは逆に難しいことのように思え、ありがたいなと感じたのです。

ショパンにモーツァルトにドビュッシー、リストまで

特にロマン派の作曲家の作品は好きなものが多いのでそれを間近で聴くことができると思っただけで

ワクワクしました。中には挑戦したことのある曲もちらほら！

舞台に立ち挨拶をすると、ふわりと弾き始めたその一音で

この私にも音の違いがわかりました。

優しく甘美な音色が会場を包みます。

プロの演奏家の方に大変失礼な表現ではありますが、

私の苦手な左手や、右手の小指がすごく訓練されているんだなぁと思いながら

ラ・カンパネラに代表される彼女の演奏の特徴とも言える持ち味を、様々な曲で堪能しました。

フジコさんのピアノからは多彩な音がしました。

さらには作曲家の生きた時代によって大きく表現が違うように感じました。

曲間、１５秒ほどの静かな時間に気持ちを整え、

ご自身が深められた理解でその世界観、物語を紡ぎ出す。

その様はすごく勉強になりました。

ショパンの作品は、今年ショパンの心臓が眠るポーランドに行ってきたこともあり、

特別な思いで聴きました。

別れの曲、革命ではフジコさん自身の人生の苦難や、

ポーランドの時代背景などを思い、涙が出そうになりました。

その意味でも２０１８年の終わりにふさわしい

贅沢なひとときでした。

そこかしこに独特な表現があり、その唯一無二な存在感ゆえ、

演奏には様々な評価があるとききますが、

どんなことがあっても、ピアノと真摯に向き合ってきたその精神力の強さ、

全てのプログラムを楽譜一枚見ることなく、弾きこなす様子に、

どれだけの時間を費やしてこうして人に演奏を届けているのかと思うと

尊敬しかありません。

暗譜しているのではなく、指先からこぼれ落ちるメロディーの数々は

本当の意味で彼女の体に染み込んでいるんだろうな、とも。

ピアノの存在はあるときは救いであり、相棒だったのでしょう。

そんなことも感じながら聴きました。

御歳８６歳とも言われるフジコさんが最後までエネルギーに満ちた演奏をされるその原動力は

どこにあるのだろう。

はっきりとご自身を主張されているような演奏やお言葉が取り上げられることが多いですが、

実際には純粋にピアノ表現を追求される少女のような雰囲気をそのままに

年齢を重ねられてきたことが見て取れました。

短い曲間のMCの中で

遅れてきた方はどうぞ今お入り下さいといったり、

アンコールとしてショパンのワルツ、シューマンのトロイメライ

２曲も演奏してくださったり、

最後は観衆に手を振って舞台を後にしたり、と

優しさやお茶目な一面を垣間見ることもでき、

演奏だけでなく素敵な時間を過ごすことができました。

前半と後半でお色直しをされたそのお衣装にも

すごく個性が光っていて、

１秒の瞬きも惜しいほどそのお姿を目に焼き付けました。

目が乾いた。。

生意気にも私なりの感想を書きましたが

地元での開催でなければ、よし！聴きに行こう！と思えなかったかもしれません。

フジコさん、八王子にいらしてくださってどうもありがとうございました。

わがままにもう一曲、聴きたかったリストのため息は

また今度の楽しみにとっておきます。

これからも、どうぞどうぞお身体を大切に、

優しい音色をたくさんの方に届けて下さい。

生演奏のすすめ