【タイトル】
白と黒 [Disc.02]
【アーティスト】
谷山 浩子
【リリース】
2005/12/7
【トラック】
[1]たんぽぽ食べて
[2]ドッペル玄関
[3]人形の家
[4]SAKANA―GIRL
[5]ガラスの巨人
[6]悪魔の絵本の歌
[7]てんぷら★さんらいず
[8]そっくり人形展覧会
[9]仇
[10]ダイエット
[11]穀物の雨が降る
[12]不眠の力
[13]王国
[14]リカちゃんのポケット
[15]キャンディーヌ
[16]意味なしアリス
[17]楽園のリンゴ売り

【総合評価】3.4


 こちらが[Disc.02]。前回の[Disc.01]に比べ全てがまるで違うとは必ずしも言い切れないが、空気感が違うのはお分かりいただけるかと思う。トレーディングカードのテキストではないかというような何処か意味ありげなタイトルが多い。


 『ドッペル玄関』は洒落として掛けるものが常人では発想としてあまり頭にない。その他『悪魔の絵本の歌』『仇』『意味なしアリス』など普通に聴いていいのかと思えるような楽曲もあるが、曲調としては決しておどろおどろしいものではない。

 タイトルに繋げるとするならば、この辺が白と黒の「黒」になると推測出来なくもない。しかし、黒の真意は《暗黒〔Dark Matter〕》と実際は捉えるべきだろう。暗黒といっても目の前全体が真っ暗という事ではなく、「明」に対する「暗」の最奥がそうなっているという構造と捉えてほしい。しかもそこは負の空気が充満しているというわけでもなく、ただただ暗い。

 つまるところ、この暗黒という空間に恐怖をあおる空気があったとしても恐怖そのものは存在していない。恐怖と感じるのはその人間の心理が勝手に作用しているだけに過ぎない。だから本来普通に聴こうと思えば普通に聴いていられる、そういかないのが感覚から捉えてしまう先入観の壁。


 こんな「にわか心理分析」に突っ走ってしまうのは、今回の作品だけでは本人を知るべく楽曲数が全くもって足りていないからである。[Disc.01]と[Disc.02]合わせて17+17、つまり34曲。この数は本来なら大容量と言って良い。

 ところが、谷山浩子作品はシングル20枚強に対しアルバムは30枚を優に超えている。当然楽曲は膨大で一応今作はベストアルバムではあるが、その概念が通用していないようにしか感じない。おまけに見ても分からないとは思うが収録曲のほとんどがアルバム曲なのである。

 そして今まで当方が聴くことが出来たアルバム作品も僅かしかなく、結局は何を言っても一部しか感じていない人間の意見。言い訳をするなら、そもそも店舗に置いてある作品が少なすぎる。


 ただしこの作品だけでも、その作風が「独特」や「現実離れ」などの表現をされている事に対して疑問が持てる。明らかにそんな次元ではない。歌詞だけならそう表現できなくもないが、それが曲と合わさると最早〈三次元〉でも収まらないような空間を聴く側に想像させる。変幻自在と言えば格好良く聞こえるが捉える方は大変である、本人もどこまでその変化を予測できているのか。

 故に[Disc.01]の前回に本人を「奇才」扱いした。今のTVでは果たして本人の何を伝えられるのか、率直に何の期待もできない。楽曲提供を受けたりするなど関係性のある歌手の意見を参考にすれば組み立てくらいは出来るだろうが、そもそも一言で言い表すのは不可能。「奇才」も所詮体の良い表現でしかない。


 [Disc.01]収録の『ねこの森には帰れない』の音源を欲しいがために入手し、ど嵌まりした時点で当方はその不思議な空間に吸い込まれてしまった。抜け出すにはアルバム作品をある程度聴き倒すしかなさそうであるが、抜け出す必要もないのでいつまでも滞在するのが楽なのかもしれない。

 閲覧者の方が聴いただけの時点では皆が当方と同じような感覚になることはないので、そこは安心していただきたい。くれぐれも本人の深層心理を安易な気持ちで覗くような事はしないよう、さもなければ他の楽曲を歌詞から調べて片っ端から聴きたくなってしまう。巨大な迷路を突き進むにはそれなりの覚悟が必要。(完)