【タイトル】
NATALIE COLE 〈DISC 2〉
【アーティスト】
NATALIE COLE
【リリース】
1992/9/30
【トラック】
[1]OUR LOVE
[2]LOVERS
[3]NOTHING STRONGER THAN LOVE
[4]KEEPING A LIGHT
[5]JUST CAN'T STAY AWAY
[6]I LOVE YOU SO
[7]STAND BY
[8]WHO WILL CARRY ON
[9]YOUR LONELY HEART
[10]SOMEONE THAT I USED TO LOVE
[11]STAIRWAY TO THE STARS
[12]DON'T LOOK BACK
[13]BEAUTIFUL DREAMER
[14]WHAT YOU WON'T DO FOR LOVE
[15]WE'RE THE BEST OF FRIENDS
[16]GIMME SOME TIME

【総合評価】3.5


 ナタリー・コール、前回を参照していただければ話は早いが偉大なるジャズピアニストで歌手のナット・キング・コールを父にもつ。このアルバムは時代順に曲が並べられており〈DISC 1〉は1975年のデビューから1977年までを辿った。


 今回〈DISC 2〉の内容は
[1]~[5]→1977年秋のアルバム
(〈DISC 1〉の[20]から続く)
[6]~[9]→1979年初春のアルバム
[10]~[13]→1980年のアルバム
[14]~[16]→1979年秋のアルバム
となっている。1979年秋のアルバムがデュエット・アルバムのため入れ替えを行ったとライナーノーツにはある。

 1977年頃は音楽プロデューサーと公私共にパートナーとなるなど一番充実していた時期であった。その後のアルバムで自作の楽曲を増やしていく、抜きん出たシングル曲はないもののアルバムは順調ではあったらしい。

 もう[1]~[5]のあたりは聴けば素人でも明確にそれが分かる。テンポを上げなくとも聴衆を唸らせるだけの資質を自ら俯瞰出来ていたのかもしれない、それくらい余裕を見せつけるかのような歌唱ぶり。

 [6]~[9]でも貫禄の歌唱、この頃も充実していた事が窺える。そもそもこれが本当に40年近く前の楽曲なのかと思えてしまう。これを聴かされたら今のJ-popは「ひよっこ」扱い、いや最早それ以前の問題かもしれない。


 ところが、1980年頃からヒットに恵まれなかった旨の説明がライナーノーツに掲載されている。ヒットするしないというおおよその基準としてはチャートが大体50位以内で尚且つゴールド・ディスク(=50万枚以上のセールス)以上の認定を受けている事らしい。普通ならそこまで辛辣に言われることもないとは思うのだが、かつてプラチナ・ディスク(=100万枚以上のセールス)を獲得しグラミー賞を受賞している身分としてはその差を冷酷に突かれてしまうのである。

 勘違いしてほしくないが[10]以降、急に翳りが見えたような気配は聴く限りでは全くもって見受けられない。ライナーノーツは「いっぱしのポップス・シンガーで終わりたくない」と本人の気持ちをやや過剰気味に捉えているが、様々なジャンルに手を出したのは流行を追った結果であり聴いてみるとどのジャンルでも難なくこなしているのが分かる。


 「永らくヒットに恵まれなかった」という表現をほぼそのまま受け止めたとして、更に負のスパイラルを増幅させたのが薬物使用と依存。この辺はライナーノーツで全く触れていないが、洋楽歌手はいつの時代も陥りやすい。

 デビューからずっと既に故人となっていた父親の存在を避けていたナタリーだが、結局この苦境を救ったのは他ならぬ父のナット・キング・コールであった。後に発表するアルバム『アンフォゲッタブル』で父親の楽曲を採り入れて、復活できたのは幸いにしてドラマティックである。採り入れたことの経緯を話していないあたり、完成させた後も余程の葛藤があったに違いない。


 今回一番残念なのはもうその歌声を生で聴けることは二度と無いこと。2015年末、もう本当に2016年になろうかとしている日にナタリー・コールはこの世を去った。当時そこまで深刻に受け入れていなかったこともあって、今回本人を調べている中で既に亡くなっていたことを思い出した。少しだが本人に近付けたような気がしていたのに、急に遠ざかってしまった気分に襲われる。


 因みに[14]~[16]のデュエットは全てピーボ・ブライソン、杏里の項(評105)など過去に何回か登場したデュエットのスペシャリスト。この頃が駆け出しであるという。


 当初この作品を聴くのは冒険のようであると思えたが、このイメージは正直とんでもない。こんな「粋」なアルバムは中々出会わないと思う、父同様娘も偉大な歌手であったと個人的には図々しくもそう位置付けておきたい。(完)