今日は実際に漢詩を作ってみましょう。


 どれでもいいのですが、短いので五言絶句がいいでしょう。コツとして「まず最後の行(結句)を作って、それから三行目(転句)を。一、二行目を最後に作る」なんてことを言いますが、絶対のルールじゃありません。


 また、平起式と仄起式のうち、ここでは平起式で作ってみましょう。

 平起式は、こんな韻律でした(ピースごとに分けるため「/」をいれました)。


 ○○/○●●
 ●●/●○◎
 ●●/○○●
 ○○/●●◎


 ○○がふたつ、●●がふたつ。

 それに韻を踏むやつ(●○◎と●●◎)、あと○●●と○○●(これは転句)があります。


 一行目からいってみましょう。詩語表の○○の中から、好きなのを選びます。

 開元(○○)……年のはじめ

 それと意味の合うものを○●●のグループから、持って来ます。

 【転句】から「醒又酔」を持って来ましょうか。

 起句はまず「開元醒又酔」で決まり。


 次に、同様に●●から好きなのを持って来て、 

 歳首(●●)……年のはじめ

 ●○◎から好きなのを選びます(なお◎は○、つまり平声で韻を踏むのが普通です)。ただ、脚韻を踏むので、ここで選んだのと同じグループの句を四行目でも選ばなきゃいけません。ここで【東】グループから選んだなら、四行目も同じ【東】の項目から選ぶ、ということです。

 ここでは、●○○「帝城東 帝都のひがし」としましょうか。

 承句は「歳首帝城東」となりました。


 次に転句、三行目。同じように●●を拾って、意味の合う句を詩語表の○○●から持って来て、つなぎます。

 ●●は「淑気 春になること」にし、○○●は「祥光紫」としましょうか。合せて「淑気祥光紫」です。


 最後もくりかえしです。

 ○○は「初陽 春の日かげ」にしますか。●●◎は脚韻を踏むので二行目と同じ【東】グループから持って来て、「瑞靄中 めでたきかすみの中」としましょうか。合せて「初陽瑞靄中」です。


 これで、

 開元醒又酔
 歳首帝城東
 淑気祥光紫
 初陽瑞靄中

 となりました。詩語表の春の項、【歳旦】から作りましたので、「歳旦」と題して完成。もちろん別なタイトルをつけたいなら、お好きにどうぞ。
 正しく表から選べたなら、これで韻律は完璧です。中国の人に詠んでもらったら、面白いことでしょう。

 でも、意味はどうなんでしょう。書き下し文は? ここでは割愛していますが『和漢名詩選 訳註附・作詩初歩』には、各語にカタカナで読みも書いてあります(歴史的仮名遣いですけれど)。古文が苦手だった人でも、これで大丈夫です。


 開元、醒又酔ふ
 歳首、帝城の東
 淑気、祥光紫
 初陽、瑞靄の中


 年のはじめ、醒めてはまた酔う
 春のはじめ、みやこの東
 春になること、祥光紫
 春のひかげ、めでたきかすみの中


 だんだん雰囲気が出て来ましたね。

 ここで意味を見てみると「開元」「歳首」が気になります。どっちも「はじめ」で終っていて似た意味ですから。だから、いずれかを変えた方がいいでしょう。


 それに対し、訳では「春の」「春に」と始まるのが並んでいますが、「歳首」「淑気」「初陽」は問題ありません。それぞれ別のことです。


 あ、あと、同じ「字」がひとつの詩で二字以上使われないようにする方がいいです。ただし「日々」「常々」などはかまいません。


 しち面倒なことは他にたくさんありますけれど、まずはこれで何とか漢詩ができます。どうぞ皆さんも作ってみてください。おおできた! もっとやってみたいぞ、という方は本を読んだり、リハクやトホに親しんだりするのもよいでしょう。
 二、三日で私以上にすぐなれます。


 漢詩を作るには、要は詩語表の中から拾ってきて韻律に合うよう当てはめる、ということでした(シュルレアリスムの試みに似たのがありました)。もちろん中国語を話す人は表なんか見なくても分るでしょうし、そんなのは創作じゃないという人もいるかもしれません。


 でも、この詩語表、ここではほんの一部しか紹介していません。
 人間、詩を作るといったって考えることは余り変わらないわけで、これまでに膨大な詩語の蓄積があります。そして、その詩語の組み合せの妙が芸術の域に達することも、ありうると思います。


 
★再掲
『和漢名詩選 訳註附・作詩初歩』(奥村梅皐編、文江堂書店、大正元)より
 
 ◎春


【歳旦】

●●
首祚 春のはじめ

○○
初陽 春の日かげ

○○
新陽 初日のかげ

○○
開元 年のはじめ

●●
歳首 年のはじめ

○●
青帝 春のかみ

○○
三朝 元日のこと

(中略)

●○
餞春 春になること

●●
淑気 春になること


 以下、【歳旦】の項が277ページまで続いています。

 下段には、


【東】

●○○
帝城東 帝都のひがし

●●○
斗柄東 星がかはる

●●○
四海同 いづくも同じ春

●●○
瑞靄中 めでたきかすみの中

●○○
閃春風 はる風にきらめく

 (中略)


【灰】

●●○
一樹梅 一もとのうめ

○●○
春色回 春の色が見えて来る

●●○
白玉堆 雲が堆くつもる

 (中略)


【庚】

●●○
爆竹声 ほこら(←たぶん誤植)

●○○
洛陽城 みやこ

●○○
満皇城

 (中略)


【転句】

○○●
三元首 年のはじめ

○○●
新年酒

○○●
顛狂客 酔いつぶれた客

○○●
春将動

○○●
祥光紫

○○●
歓無限 よろこびかぎりなし

○○●
春風底

○●●
醒又酔