延喜式祝詞の二番目は「春日祭」です。
 これは現在の春日大社のお祭りでして、勅使、つまり
天皇陛下のお使いが遣わされます。
 それで賀茂・石清水のお祭りと合せて三勅祭と呼ばれこともある重儀であります。
 
 現在は3月13日に行われますが、この延喜式の頃、つまり平安時代には旧暦の2月と11月、最初の申(さる)の日に行われていまして、そこから申祭とも呼ばれていました。
 今日は旧暦で1月26日、最初の申の日は2月2日。これは今の暦で3月6日ですから、だいたい同じ時期ということになりますね。

 ではさっそく、訳してみたいと思います。



天皇陛下のご命令でございます


恐れ多くも
鹿島にいらっしゃるタケミカヅチノ命
香取にいらっしゃるイハヒヌシノ命
枚岡にいらっしゃるアメノコヤネノ命
比売神、四柱の清らかな神様の前にて申し上げます


春日の三笠山の地において
地下には立派な柱を立て
高天原に届くほどにも高くに千木をそなえ
天を覆い太陽からお隠れなさる場所と
この宮を定め申し上げ


献る神宝は
御鏡 御横刀 御弓 御桙 御馬


お召し物の布としまして
明るい色の布 きらきらした布
ごわごわした布 つるつるした布


また、四方の国より税として献る稲穂を
ご神前に取り並べまして


青い海原で取れるものは
ひれの大きな魚も、ひれの小さな魚も
沖でとれる海藻も、岸辺でとれる海藻も


山の野原に生えているものは
甘い野菜から辛い野菜に至るまで


なみなみと御酒をついだ酒器を並べ
様々なものを横に長い山のようにたくさん積んでお供えし


神主として【官位氏名】を定め
こうして献る天皇陛下からの幣帛を
じゅうぶんな幣帛として平安にお受け取りくださいと
清らかな大変尊い神様たちを称え
ことばを尽して申し上げます


こうお仕え申し上げることで、今もこれからも
天皇陛下の朝廷を平安になさり
満ち足りた立派な時代となるようお守り致し
永遠に幸をお与え申し上げ


このお祭りにお仕えする諸所、諸家の王や重臣たちをも
平安に、立派な桑の枝のように栄えさせ
朝廷に仕えさせなさいませと
ことばを尽して申し上げます。


(大原野・平岡の祭の祝詞もこれに倣うこと)



●原文の書き下し文
 『祝詞』(青木紀元・おうふう)による
 【 】は割注、二行に分けて小さく書かれています。

天皇が大命に坐せ、恐き鹿嶋に坐す健御賀豆智命・香取に坐す伊波比主命・枚岡に坐す天之子八根命・比売神、四柱の皇神等の広前に白さく、大神等の乞はし賜ひの任に、春日の三笠の山の下つ石根に宮柱広知り立て、高天の原に千木高知りて、天の御蔭・日の御蔭と定め奉りて、貢る神宝は、御鏡・御横刀・御弓・御桙・御馬に備へ奉り、御服は明たへ・照たへ・和たへ・荒たへに仕へ奉りて、四方の国の献れる御調の荷前取り竝べて、青海の原の物ははたの広物・はたの狭物、奥つ藻菜・辺つ藻菜、山野の物は甘菜・辛菜に至るまで、御酒は甕の上高知り、甕の腹満て竝べて、雑の物を横山の如く積み置きて、神主に某の官位姓名を定めて、献るうづの大幣帛を、安幣帛の足幣帛と、平らけく安らけく聞こし看せと、皇大御神等を称へ辞竟へ奉らくと白す。
かく仕へ奉るに依りて、今も去く前も、天皇が朝廷を平らけく安らけく、足御世の茂し御世に斎ひ奉り、常石に堅石に福はへ奉り、預りて仕へ奉る処々・家々の王等・卿等をも平らけく、天皇が朝廷にいかしやくはえの如く仕へ奉り、さかえしめ賜へと、称へ辞竟へ奉らくと白す【大原野・平岡の祭の祝詞も此に准へ】。