「祈年祭」は「きねんさい」もしくは「としごひのまつり」と読みまして、もともと、春に耕作を始めるにあたって、秋の豊作をお祈りした祭です。
 「年」は稲のことで、稲(の豊作を)祈るので、こうした名前で呼ばれて来ました。


 平安時代は二月四日でしたが、今日では二月十七日に行われることが多く、農業だけではなく諸産業が順調に発展するように願いを込めてお祭が行われます。
 当社ではもう少し暖かくなって、三月の春分の日の春祭を祈年祭としてお祭りします。


 さて今日から、何度かに分けて延喜式にある祈年祭の祝詞をご紹介したいと思います。
 以下、意訳であって逐語訳ではないので、ご了承ください。



ここに集まっている神主、祝部よ
みなよく聞きなさい
天皇陛下の仰せである


高天原にいらっしゃる
男神様、女神様の仰せを承って
尊い御位を代々受け継いで来られた
天皇陛下の仰せである


天の神様のお社、地の神様のお社と
日頃より、ことばを尽くしてお仕えしている
清らかな神々の前にて、申し上げます


今年も二月に入りましたので
そろそろ田のことを初めなさろうとして
朝日がぐんぐん昇るまさにこの時
天皇陛下からの立派な幣帛を捧げ
お祭り致しとうございます


稲の神様、清らかな神様の前に申し上げます
天皇陛下にお与え申し上げなさった稲穂を
これより、ひたすら励んで育みます
肘には水の沫が飛んでかかり
腿には泥がはねることでしょう


稲の神様のおかげで、豊作ともなれば
初めて取れた稲穂をたくさんお供え致し
もちろん酒にも醸しまして
なみなみと酒器を満たして捧げます


そうして、大きな野原に生えているものは
甘い野菜も、辛い野菜も


広々とした大きな海原で取れるものは
ひれの大きな魚も、ひれの小さな魚も
沖でとれる海藻も、岸辺でとれる海藻も

お召しものとしましては
明るい色の布 きらきらした布
ごわごわした布 つるつるした布を


さらにまた 古くからの言い伝えによって

決まっている捧げものがございます
それは、白い馬、白い猪、白き鶏を初め
さまざまな色をしたもの


天皇陛下の幣帛として
これらをお供え申し上げ
ことばを尽くしてお祭り致します


神主、祝部よ、以上のように
天皇陛下がおっしゃった
みなよく承れ



●原文の書き下し文
 『祝詞』(青木紀元・おうふう)による
 【 】は割注、二行に分けて小さく書かれています。


祈年祭

集はり侍る神主・祝部等、諸聞き食へよと宣ふ【神主・祝部等共に唯と称せ。餘の宣ふも此に准へ。】高天の原に神留り坐す皇睦神漏伎の命・神漏弥の命以ちて、天つ社・国つ社と称へ辞竟へ奉る皇神等の前に白さく、今年の二月に御年初め賜はむとして、皇御孫の命のうづの幣帛を、朝日の豊逆登りに、称へ辞竟へ奉らくと宣ふ。
御年の皇神等の前に白さく、皇神等の依さし奉らむ奥つ御年を、手肱に水沫画き垂れ、向股に泥画き寄せて取り作らむ奥つ御年を、八束穂のいかし穂に皇神等の依さし奉らば、初穂をば千穎八百穎に奉り置きて、みかのへ高知り、みかの腹満て雙べて、汁にも穎にも称へ辞竟へ奉らむ。大野の原に生ふる物は甘菜・辛菜、青海の原に住む物は鰭の広物・鰭の狭物、奥つ藻菜・辺つ藻菜に至るまでに、御服は明妙・照妙・和妙・荒妙に称へ辞竟へ奉らむ。御年の皇神の前に、白き馬・白き猪・白き鶏、種種の色の物を備へ奉りて、皇御孫の命のうづの幣帛を、称へ辞竟へ奉らくと宣ふ。