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 「小人」
 
 小人が見え始めたのは春になる少し前からだった。僕は新しいクラスになって今までの皆んなと離れるのが嫌だった。これまでのクラスこそが完全な調和の取れた共同体だと信じていた。しかし、それもまた一年経てば変わってしまう気持ちなのかも知れないな、などと取り止めのない事を考えているうちにふと、視界の端に小人の姿を発見したのだった。
 洗面台の家族皆んなの歯ブラシを置いておく棚の縁で、脚をブラブラとさせながらその小人は僕に笑い掛けていた。それを目にしたとき僕は心臓が口から飛び出すんじゃ無いかと心配になったぐらいに驚いたのだが、すぐに逃げ出したりはしなかった。一つには驚き過ぎて身体が固まってしまったということもあるのだが、驚いて逃げ出したりしてしまう事で、自分自身がこの世のものならざる「何か」を見たことを認めてしまう様な気がしたのだった。
 しかし、日を追うにつれ小人の出現する回数は増えていき、ついに僕は何らかの対応を取らなくてはならなくなってしまった。
「君は何がしたいんだ?」
 僕は小人を睨みつけて言った。
「どうして僕の周りにばかり現れるんだ」
 しかし小人は僕の問いかけを無視してニヤニヤと笑い続けていた。小人の顔の中でその笑みはどんどん大きくなり、ついには声を出して笑い出した。実に耳障りな笑い声だった。その笑い声を聞いているうちに僕はどんどん意識が遠くなり、ついにはその場で倒れてしまった。
 目を覚ますと僕はさっきまでいた自分の部屋の中にいた。しかし、自分が今部屋のどの部分にいるのかがよく分からなかった。全てのサイズ感が狂っている。巨大な綿ぼこりにまみれた巨大な虫の死骸が傍にあって僕はゾッとした。そして目の前に現れた巨大な僕自身を見てさらにゾッとした。今ある自分自身の身体に目を落とすと、さっきまで小人が来ていた粗末な民族衣装の様なものを身に付けていた。巨大な僕はニヤリと見覚えのある「僕のものでは無い」笑みを浮かべると部屋を出て行った。
 僕は苦労して部屋の姿見の前に辿り着くと、その下の端の方に自分の顔を映してみた。そこにはさっきまでの小人がいた。さっきと違うことといえば、あのニヤニヤとした笑みは完全に消え、ただ表情の抜け落ちた顔をしているということだった。