「鎮魂歌」
雨に振り込められた感情が部屋の中で、化膿した傷口のようにじくじくと痛んだ。毎年のようにこの日に降る雨を僕は憎んだ。妻は態度にこそ露骨に示すことは無かったがいつもにも増して口数が少なく、家事をする後ろ姿はどこか寂しげだった。
「今日、夕飯は宅配にしようか」
僕は努めて明るい声で言った。
「それともどこかに食べに行くかい?」
妻はうつむき加減に首を振って答えた。
「今日はウチに居たいの。それに家事をしたり夕食の支度をしたりしている方が気が紛れるから」
僕らはどちらからともなく棚の上の写真に目をやった。そこには五年前の僕たち家族の幸せな笑顔があった。あるいは僕らの心の一部は、あの日に置き去りになっているのかも知れなかった。生きていれば何歳になるんだろう?毎年この日になるとその事を考えずにはいられなかった。そういえばあのときも雨が降っていたな。そう思うとやり切れなかった。
夕食を食べながら僕らはポツリポツリととりとめのない話をした。しかし間断なく降り続く雨の音のせいか、意識してあの日の話題を避けているせいなのか、どの話も途中で立ち消えになった。
食事を終えると早い時間から僕らは寝室に行き、電気を消して二人で抱き合うようにして眠った。天国に行った二人の間の子供に想いを馳せながら。降り続く雨の音がその魂への鎮魂歌となることを祈りながら。