「雪」
日本海側は異常な豪雪でひどい目に遭っています。逆に太平洋側は例年の如く乾燥した日々が続きます。正月ぐらいは初雪が薄く積もって楽しみたいなどと、雪に悩む人々に対しては不謹慎なことも考えてしまいます。
江雪
千山鳥飛絶
万径人跡滅
孤舟簑笠翁
独釣寒江雪
柳宗元(773~819)が不遇の時の五言絶句。鳥も飛ばず、誰一人いない厳冬の世界の中、寒い川でひとり簑笠を着た老人が釣り糸を垂れている。一幅の絵を見るようで、中国でも愛され馬遠など多くの画家が描いている。景色の唄だが、深い孤独と寂寥が伝わってくる。韻を踏む絶滅雪(ぜつめつせつ)が凄い。
ときどき顔を出していた寿司屋に「独釣寒江雪」と書かれた額が掛かっていた。わりと偏屈なおやじに「何の書か知ってるの」と聞いたら「くれた人がいたので掛けただけ」と素っ気なかった。最近、店は休業しているのが気になる。
ちなみに、この詩は高校の教科書に載っていたもので、語呂はいいし今でもつぶやいていることがある。「千山鳥飛ぶこと絶え 万径人跡を滅す 孤舟簑笠(さりゅう)の翁(おう) 独り寒江の雪に釣る」
黒髪
黒髪の結ぼほれたる思ひには 解けて寝た夜の枕とて
ひとり寝る夜の徒枕 袖は片敷く つまぢゃと云うて
愚痴な女子の心も知らず しんと更けたる鐘の声
ゆふべの夢の今朝覚めて ゆかし懐かしやるせなや
積もると知らで 積もる白雪
天明4年(1784)11月、江戸中村座「大商蛭子島」の中で初演。作曲・作者は諸説ある。絡んで解けない黒髪のようにあなたへの想いはほどけない。寄り添って寝たあの夜の枕も今夜は徒枕に。「袖は片敷く」は、古代男女は互いの袖を敷き交して共寝をしたそうで、今夜は私の袖だけ、の意。来ぬ人を待って夜を明かしたやるせなさと寂しさ、「ゆふべの夢」とは愛されていたころの夢のような日々のことでもあろう。
長唄を習いに行っていた女性のレイアウターがいて、時々その勉強会に顔を出した。座敷で1合瓶と弁当をいただくのが目的だったが、配られた演目歌詞の冊子を読むと長唄には粋な言い回しが多くあるのに感心した。
「江雪」も「黒髪」も孤独な寂寥感を表しているが、意識されるものはかなり違う。雪も「冷えきって乾いた雪」と「ややぬくい湿った雪」の感触だ。