『そんな顔して、まだ近寄るな、なんて言わないよね?』
今証明してあげるから、安心して……?』
何を…と言う間も与えず
蓮はキョーコの顎を引き寄せると素早く唇を奪った。
きゃああああああああああっ//////!!!???
どおおおおおおおおおおおっ/////!!!???
スタジオに悲鳴と歓声が響く。
肩と腰を逃がさないとばかりにしっかりと掴み、キョーコに覆いかぶさっていく。
見る者の視界から遮るように。
『……ん…ぅふ……んっぅ……ぁ』
吐息だけが漏れ聞こえ、
スタジオはその甘い声の音色を聞き逃さぬよう悲鳴からざわめきに移り変わる。
頬を染めガン見する者。
ムンクの叫びポーズで固まる者。
嬉々として食い入るように見る者。
様々な好奇の視線を受け
蓮は、
自身の身体でキョーコの表情を隠しつつ
カメラをギラリと音がしそうなほどの勢いで睨みつける。
その眼光はまるで闇の国の住人ならぬ
闇の国を統べる-魔王-
その牽制する視線にスタジオの室温が急降下する。
彼女に近づきたければ…あの魔王を倒さなければならないのか-
そう、凍てついた眼光に射貫かれた者は思っただろうか…
魔王が口を開き
『キョーコは俺のモノだ……』
と言った瞬間。
モニターの画像が切り替わり、スタジオ内、司会者の口を開けたままの放心顔がドアップで映る。
「どわっ!?え!!なんで俺?…何だ?…これでおあずけって事デスカ?」
と司会者が言いスタジオに居る出演者と観客も同じ疑問を抱いていると、司会者は我に返り
「ていうかこんな展開俺聞いて無いんだけど!?ハッ!?……まさかまさか……!!俺までターゲットだったって言うのかよ!?」
と勢いよくディレクターの方に振り向く。
ディレクターは両手を額の前で合わせ【ゴメン】のポーズ。
司会者が文句を言おうと口を開けた時
「実はそうなのです!!」
と登場したのは
心を震わす重低音ヴォイスの持ち主、タレント事務所LME社長、ローリィ宝田その人だった。
「レディース&ジェントルメン!!お集まりの皆さん!!我がLME所属俳優、敦賀蓮&京子による【ドッキリと思わせてまさかの逆ドッキリ…かと思いきや更なるサプライズを求めて!!ドッキリのお返し大作戦の巻!!!】…楽しんで戴けましたか?」
腹に響く声が止むと刹那の沈黙。そして-
ええええええええええええっ!!??
本日一番の悲鳴が轟いた。
「更なるサプライズって……え?どこから?」
司会者が目の前の衝撃的な人物の衝撃的な発言に毒気を抜かれながら疑問を投げ掛けると
「もちろん【逆ドッキリ】が成功した後だよ」
「えぇ!?あれ、敦賀さんが暴走して京子ちゃんに迫ってたんじゃないの!?俺ものすごくドキドキしたんですけど!!!俺の番組どうなっちゃうの!?って思ったくらい!!」
「そうでしょうそうでしょう」
ウンウンと大きく頷くローリィ。
「我がLMEが誇るトップ俳優達の実力を味わって頂けたようですな!!まるでドラマを見ているような臨場感だったでしょう!!」
「えー!?じゃああれ全部お芝居だったのか!!……台本だったって事!?…そうかぁ…確かに敦賀さんそれやり過ぎ~ってくらいに大分キャラ違っちゃってたもんな……ハハ…京子ちゃんなんて真に迫ってマジで色っぽいな~なんて……俺かなり阿呆面晒してたましたよね…あ、我がって事は、貴方はLMEの社長さんなんですね。何者かと思いましたよ……」
問われたローリィは
緻密な装飾を施された上質なマントを翻すと
「失礼。申し遅れました。私がLME社長のローリィ宝田です!!皆さん、ヨロシク!!」
華麗にターンを決めた。
その様子を側で見ていた社は、かいた冷や汗を隠すのに必死だった。
何が【更なるサプライズを求めて】だって?
何が【ドッキリのお返し大作戦】だって?
俺もそんな事聞いて無いし、
それに俺は見ていた……
モニターに映る危機迫る蓮を見ながら本気で焦っていたディレクターの顔を。
そしてそんなディレクターに近づき、何やら話し掛ける社長を。
ディレクターが頷き、
そしてモニターが切り替わった事を……
番組は司会者の出演者へのツッコミと、強すぎる社長の個性についてスタジオは盛り上がっていた。
蓮…お前、社長には二度と頭が上がらないかもしれないぞ…?
番組は無事、終わりを迎えようとしている。
社はスタジオから切り離された楽屋の二人に思いを馳せていた。
二人とも…。社長があんなに頑張ってるんだから、上手くいってくれよ…
終わり