退屈に日常は過ぎる。退屈すぎるが、興奮すると疲れる。
誰かがそう言っていた。あぁ、憧れの先輩だ。
「ばいばい」と「さようなら」が延々と響く廊下を俯いて歩く。
ことさら、「さようなら」に関しては間抜けに語尾を延ばす声。だらしない。
「にしし、自惚れる程に華麗なステップだ」雑音を一掃するかのように、
一人呟いて口角を釣り上げる。
高等学校とは言うものの何が「高等」なのかわからない。
常に誰かと生活をする場所。トイレでさえも誰かと共同。
着席して教員の話を聞くだけなのに妙に神経をすり減らすのは僕だけだろうか。
牢獄のようなビルディングのエントランスを抜ける。
僕は自由を得た。かのように思われた。
「遊ぼう?」
出た。悪魔だ。悪魔が、出た。
僕はいつだってこの小さな悪魔にからかわれている。
でも悪くはないのだ。嫌いじゃない。と言うよりも、
脳内会議を遮るように返答を促す悪魔。「ねぇ」
いつもずるい。逆らえないのだ。
「んん、あ。」
我ながらいつもの曖昧なYES。
猫のような目で悪魔の笑みを浮かべるこの女。やっぱりずるい。
コンビニの脇の小道を入った奥に撤去自転車の集積所がある。
そして集積所のフェンス沿いが僕らの仲間内のバイクの駐輪場。
「ただいま、愛しのマグザムちゃん」心の中でだけ呟いてバイクのシートを開く。
そしてちゃっかりと言うべきか、ちゃんと2人分のヘルメットが入っていたりして。
「はい」ポンと手渡す。「ありがと」紐をいじる悪魔。
おもむろにシートに跨った僕は、自分のメットを被り、紐を締める。
「乗っていいよ」悪魔を見やる。
唇を尖らせ、困った表情で「ヒモ、シメテ」という悪魔。
「お前はロボットか。」そう言って紐に手をやる。
顔が、近い。
目を、見る。
猫目が、細くなる。
口角が、上がる。
こっちまで顔が緩むよ、ばかやろう。
「できた」顔を見ないふりして、悪魔を後部座席に乗せる。
同時に、向こうから見慣れた顔の男が歩いてきた。
「おー、お疲れ」
この男、まるで嵐のような男である。同じバイク通学の悪友。
後にこの男に悪魔を奪われることになるとは、ミジンコほどにも思わなかった。
「ういー」気の抜けた返事を返してバイクのエンジンをかける。
「どこ行く?」後ろに問いかける。
いつの間に腰に回っていた手にきゅっと力が入った。
「君の家。」
僕は返事もせずにバイクを走らせた。小さな鉄の塊はヘビのように車の間を走り抜ける。
目白通りに夕陽が射す。毎日通る道なのに、毎日ドキドキする。
「今日はお空がお綺麗ですね」後ろから届いた無表情の声。
顔が緩むので、前を向いたまま返事を返す。
「えぇ、本当に。お空が、お綺麗だ」
あの時背中に伝わってきた脈拍は、
少しのズレもなく僕の心臓と重なっていた。
そして話は続く。
最高点の事実。
月の意味。
また朝が来る。
目白通りには、今日も夕凪が走るのだろう。
同じ世界の、遠い世界で、僕と君は忙しなく足を動かす。
前に進んだかと思えば、たまに後退してみたりする。
それもまたいいのかな。
とにかく、忙しない身体だ。