悲劇の坊主頭散髪事件から一夜が明けました。
私は事件当日の夜、前向きになれと言い聞かせるも、明日が来なくなればいい、目が覚めたら過去に戻っていた、起床時刻7:00を迎えた瞬間、地球に隕石が落下すればいい、と後ろ向きなことばかりを考えていた。

しかし、現実は残酷なものです。
いえ、残酷ではありませんね。
至極当然の如し、目を覚ますと、天気が良く眩しい日差しが窓越しに私の顔を照らしておりました。

私はふと妙な期待を込めて頭を触ってみました。
その瞬間、私の期待は大きく裏切られました。

昨日の朝はあったかきあげるほどに長く伸びていた前髪は無くなり、触るととても切なく、恐ろしい感触がありました。

ジョリっ…ジョリっ…ジョリっ…

あぁ、そうだ…
昨日私の長髪は父親の手で刈り取られたのだ。
もうあの時の私の長髪は無いのだ…。
私は今、ほぼ坊主頭だった…

私は重く痛いほど苦しい心と身体を起こし、通学の準備に取り掛かりました。
朝食を食べていても、歯を磨いても、ワイシャツに袖を通しても、何をしても怠くてたまりませんでした。

「行ってきます…」
たかが一日の通学の為に家の扉を開けたというのに、私はまるで戦争に行くような重苦しい声で出発の挨拶をしました。

地元の最寄駅に到着し、電車を待っておりました。
すると、駅のホームで地元の友人と何人か会いました。

「お?髪切った?」

「うん、切った。」

「おーなかなかいいじゃん!」

「切すぎちゃったよ。」

「えー、全然普通だろ!」

そんな会話をしたと思う。
そしてすぐさま話題は全く関係無い話へとシフトチェンジし、私の心もいつの間にか髪の毛のことから頭から離れ、暗い気持ちは全く消え去っておりました。

そうだよな、いくら変な頭になったからといってそんなに馬鹿にされるわけ無いか。

私は電車の中で友人とのたわいも無い、尚且つ楽しい会話のひと時を過ごし、通学していた高校の最寄駅に到着し、友人達に別れを告げ、下車しました。

先程も書きましたが、この時私は自分の髪型のことを一切忘れておりました。

本当に中学卒業までに出会った友人は宝物だと強く思えました。

駅から高校までの約10分間の道程を歩いていると、前方に私の「当時」の高校時代の友人が歩いているのを発見しました。
私は足早にその元友人に近付き、挨拶をしました。

「おはよう。」

「おはよう。え?何髪切ったの?」

友人は私と遭遇するやいなや、直ぐ様私の髪型を直視した。

「うん、切った。」

「いやぁ、それは切すぎだろ…。笑われると思うよ(笑)」

私は一瞬、「え?」と思いました。
友人の言う、私自身の髪型がマトモに思えたからではありません。

つい、30分前に出会った地元の友人の反応とどこか違ったからです。
散髪後の髪型に反応する点については全く同じです。
でもその高校の元友人は人を嘲笑し、見下しているような反応で私の髪型をまじまじと見ていたのです。
その反応に、え?地元の友達と反応が違う、どうしてだろう。

私はこの元友人の視線、発言に完全に意気消沈してしまい、高校の教室に入るのが怖くなりました。

高校に到着し、一年生当時三階にあった自分の教室へ近ずくと私の教室から賑やかな声が聞こえてきました。
あぁ、もう何人かいるんだ、他の皆はどんな反応をするんだろう…怖い…このままダッシュで家に帰りたい…

そして、恐怖心を抱えたまま左手で教室の扉を開けました。

すると賑やかだったクラス中の声は一瞬で静まりました。
次の瞬間、私は生涯忘れもしないクラス中の反応にその場で硬直してしまいました。

クラスのリーダー格のような男を筆頭にクラス全員で私に向かって拍手をしました。
この男こそ、私の大切な高校生活を踏みにじり、この年齢まで消えることない大きな傷を作った張本人である。

その時のあのカス連中の顔を私は今でも忘れません。
馬鹿なギャグ漫画を見た後のような、恐ろしい笑顔。
悪魔と呼ぶに相応しい笑顔。

前述で記載した通り、私はカス連中の反応を目の当たりにし硬直してしまい、何も考えられなくなってしまいました。

明らかに失敗と呼ぶに相応しい私の散髪後の髪型、いつ泣いてもおかしくない私の顔を見て、彼等は終わりを知らぬと言わんばかりに悪魔のような笑顔で騒音に近い拍手を私に送り続けた。