慰謝料の意味性~人格の尊厳に関わる願いと闘いと困難と | 金沢の弁護士が離婚・女と男と子どもについてあれこれ話すこと

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石川県金沢市在住・ごくごく普通のマチ弁(街の弁護士)が,日々の仕事の中で離婚,女と男と子どもにまつわるいろんなことを書き綴っていきます。お役立ちの法律情報はもちろんのこと,私自身の趣味に思いっきり入り込んだ記事もつらつらと書いていきます。

1.
 さて,離婚に関する法律問題で,慰謝料というのもとても大きなテーマです。
 慰謝料については,離婚弁護士さんたちがその綺麗なHPで沢山の情報を発信しておりますので,私は,まず,違う切り口から,慰謝料について私が思うことをお話したいと思います。

2.
 法理論上,慰謝料とは,

 相手の不法行為によって受けた精神的苦痛の対する金銭賠償

と定義できます。

 この定義から明らかなとおり,慰謝料を請求する,相手が慰謝料を支払うということのうちに,「加害者ー被害者」という関係の把握が設定されます。
 相手に対し,慰謝料を請求するということは,

相手の不法行為によって私は甚大な精神的苦痛を受けた被害者なのだ

ということを主張することなのです。

 そして,相手が慰謝料の支払義務を認めてその支払いをするということは,そこで主張された自分の行為が不法行為であったことを認めてその償いをするということと理解できます。
 支払う側の実際の主観はともかくとして,その行為の社会的な意味は,自分自身の行為の加害性を認めて,相手に及ぼした精神的苦痛の償いをするというものと理解できます。

 相手が慰謝料の支払義務を認めない中で,裁判所がその支払いを命じるということは,相手方が自己の行為の加害性を否定し続ける中で,裁判所という公権的な判断機関が,その行為が不法行為であって,その不法行為によって被害者に精神的苦痛が生じたのであるから,加害者は被害者に対してその賠償をすべきであると判断したということになります。

3.
 このように,慰謝料の性格を把握した場合,そこで請求されている金銭は,抽象的な金銭ではなくて,被害者の尊厳回復という意味を伴った金銭であることを理解できます。

 これを,妻が夫に対し,夫のDVを婚姻破綻の原因と主張して離婚慰謝料し,夫がそのDVを否定している場合で説明しましょう。
 なお,ここでは,そのDV被害の実体が現実にある場合について説明します。
 そのDV被害の実体が実は存在しないという場合については,当然,被害ー加害の様相は全く違うものになってきます。
 
4.
 妻がそのように慰謝料請求する多くの場合,次の2つの面が妻側の切実なニーズとして存在しています。


 婚姻関係の中でこれまで自分が夫から受けてきた行為の数々が,総体として不法行為であったということを,加害者である夫に対して主張する。
 自分は被害に遭ってきたということを加害者である夫に認めさせる。
 そして,その不法行為と離婚によって受けた精神的苦痛の深さに対して,それに見合う金銭評価をし,それだけの苦痛であったのだと加害者に認めさせて償わせる。
 これは,人格の尊厳に関わる意味です。


 現実に金銭賠償を得ることで,離婚後の不安定な生活を再建するための資金を獲得する。
 これは,離婚後に現実に生活を再建していく上での現実の経済的必要に関わるものです。

5.
 実体としてDVがあり,それを不法行為と評価できるにもかかわらず,夫がそれを否定している場合,その否定の動機は,大ざっぱに分類して,次の4パターンがあり得るように思います。


 夫自身は,心底,それを加害行為であると思っていない場合。さらには,その行為は,正しい行為であると考えている場合。


 夫自身は,その行為について加害行為と評価されることを多少なりとも認識しているが,まさに加害者と評価されることが受け入れがたくて,その行為の加害性を全否定している場合。


 夫自身は,その行為について加害行為と評価されることを多少なりとも認識しているが,慰謝料支払いを拒絶したいため,意識敵にその行為の加害性を否定している場合。


 上記②と③が混在している場合

6.
 夫側の動機が前記5の①~④のいかなるものであれ,DV被害の実体があるというケースですと,夫のDV否認は,被害者である妻に対するさらなる加害行為となって働きます。
 妻にしてみたら,妻側の前記4の①のように,その人格の尊厳に関わる問題として,自分が被害に遭ってきたと主張しているわけですから,それを否定する加害者の言動は,被害者にとっては,さらに被害者の人格の尊厳を否定するものとなります。
 加害者の真摯な反省・謝罪・償いを得たいということは,DVに限らず,被害者一般に共通する切実な願いです。その被害者の切実な願いが踏みにじられ,それどころか,被害者性の否定という攻撃に転化しているということになるわけです。

7.
 そうしますと,被害者である妻が加害者である夫に慰謝料を請求し続けるということは,加害を否定する加害者に対し,被害者性の確認,金額による被害の深刻さの正当評価,加害者の反省と償いを要求していくということになります。
 加害に引き続く加害否定という加害に対し,被害者は,自己の人格的尊厳を守るための闘いをしていかなければならなくなります。

8.
 これまでは,DVで説明しましたが,不貞でも同じことです。
 不貞は,基本的信頼関係を破壊し尽くします。
 二人の過去を「幸せな時の流れ」から「騙されていた時の流れ」へと一気にドス黒く塗り替えていきます。
 不貞が配偶者に及ぼす甚大な被害については,不貞配偶者はあまりにも無頓着と私は感じています。

 また,経済的な側面がこの日本では男性と女性とで大きく違いますので,さしあたり被害者を女性として問題を設定しました。
 しかし,被害者性,人格的尊厳という意味では,加害者が妻,被害者が夫である場合も同じことです。
 例えば,妻が不貞を行った夫の苦悩は,これまた甚大です。

9.
 離婚慰謝料ではない場合,例えばデートレイプのように,交際中にレイプされたという被害に対する慰謝料ですと,そのレイプの点のみが取り上げられ,また,紛争は慰謝料請求権の有無という1点に絞られます。
 語弊があるかもしれませんが,被害かどうか,慰謝料請求権があるかどうかという単一の問題の紛争です(そういうケースでの被害女性の苦痛の大きさを軽視しているものではありません。レイプは魂の殺人と言われるように,人格を破壊する重大な不法行為です。)。

 ところが離婚慰謝料になりますと,離婚ということに絡んだ問題ですので,別の重要問題が同時に存在してきます。
 それは,法律問題としては,離婚それ自体であったり,離婚までの子の養育監護,子の親権,財産分与,養育費,子の面会交流などです。
 事実問題としては,例えば,離婚が成立するまでの安心安全の問題であったり,離婚が成立するまでの子の置かれる状況,離婚後の子の置かれる状況であったりします。

 また,離婚慰謝料に限ったことではないですが,加害を否定する加害者に対して被害を主張していくという闘いは,そのこと自体が苦痛を伴います。加害者がそれを否定し続けた場合,最終的に裁判所が加害の事実を認定するかどうかという問題も重くのしかかってきます。

10.
 この記事では,さしあたり,慰謝料の意味性ということを以上のように確認した上で,これ以降の記事では,離婚に関わる法律問題の一応の解決に当たり,被害者がどのような葛藤に苦しむのかを順を追って紹介していこうと思います。

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