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この痛ましい事件。金沢発東京ディズニーランド行きの高速バスということでこのブログでは,石川ローカルのテーマに入れましたが,全国区ニュースです。そりゃそうです。
この関越道バス事故については,前の記事金沢発の東京ディズニーランド行き夜間高速バスの事故で7人死亡,38人重軽傷(重体2人)で,
アメリカ産「グローバリズム」vs民主主義・国民経済
という話をしました。
機制緩和による価格競争で安全がないがしろにされるとき,そのツケは,私たち国民にはねかえってきます。
たとえば,毎日新聞の毎日Jpにこんな記事がありました。
関越道バス事故:同業者も「過当競争で運転手に過酷労働」
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関越道バス事故:同業者も「過当競争で運転手に過酷労働」
毎日新聞 2012年04月29日 22時43分(最終更新 04月30日 17時44分)
関越道で起きた衝突事故で、同業のツアーバス会社も、背景に規制緩和で相次いだ新規参入により業界が低コスト・過当競争化に陥っている現状を指摘する。
石川県のバス会社幹部は「規制緩和後はバスを5台持って責任者を置けば誰でも参入できる。そのため過当な料金競争が起こり、運転手に過酷な労働条件を強いている」と明かす。金沢-東京間を夜間運行で往復すれば、日中の休憩を挟んで2泊3日。大型連休など繁忙期には人手が足りず、長距離運転に慣れない運転手に依頼することもあったという。
関西圏で20年超の運転歴を持つバス運転手(52)によれば、東京-大阪間の相場は片道3000円台に下落しているという。「給料も10年前の半分になった。生き残るには悪条件でも仕事するしかなく、過密スケジュールで運転する人もいるだろう」と語った。
一方、茨城県のバス会社社長(54)は「うちの会社はコストはきつくても夜間は2人体制で運行している」と強調。「今回の事故で国が規制強化の方向に走ることが心配だ」と懸念した。
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規制緩和で参入が増えて競争が激化すれば,競争に勝ち抜いて生きていくためには価格競争を続けることになります。
企業努力によってコストを削減し,そこで働く労働者の労働条件が劣悪なものでもなく,また,安全の確保もきちんとなされるということですと,それは優良企業ですね。
それができない企業は市場から撤退していただく。
自由主義経済の教科書的にはこういう説明になるのでしょう。
価格を落として利益を上げるにはコストを削減しないといけません。
企業努力には限界があるように思います。
人も組織も,理念を堅持して自己を厳しく律していくということは難しいものです。
また,たとえ,ある人やある組織がそのようにしようとしても,多数が価格競争の中で人件費削減や安全のためのコストを抑えて低価格を実現していけば,生き残るためには,それに追随せざるをえなくなります。
「悪貨は良貨を駆逐する。」んですね。
そういう次第で,コスト削減となった場合,まっさきに対象になるのが人件費であり,安全のためのコストなんだろうと思います。
そんなふうにして悪貨が良貨を駆逐していった先には,何が待ち受けているのでしょうか。
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規制緩和は,アメリカが日本に要求し続けたことでした。そして,それがなかなか進まないとなると,今度はTPPです。
法的に,条約は国内の法律より優先します。
条約の締結は内閣の権限ですが,事前・事後の国会の承認が必要になります。
その承認について衆議院と参議院の議決が異なる場合,最終的には衆議院の議決で決まります。普通の法律では,衆議院で出席議員の以上の再議決が必要ですが,条約は,両院協議会の開催とかを経て,最後は,衆議院の議決で決まります。
一旦,国会の承認がなされ,批准も完了して条約としての効力が発効しますと,その条約は国内法よりも優位です。
条約は国会の承認を経ているので,その限りでは民主主義・国民主権は保たれていると言えるのですが,一旦,アメリカさんとそういう条約を締結して有効にしてしまうと,法律という手段でその条約に反するようなことはできなくなるんですね。
自治体が地方の実情に応じて条例でいろんな環境規制をしていくのもアウトになってしまいます。
リーマンショック後の国家間の生き残りをかけて,アメリカさんは,日本の市場を奪い取ってアメリカの雇用を創出しようと,まあえげつない方法を考え出したと言えるでしょう。
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さて,TPPはこのくらいにしておいて,アメリカが日本に要求し続けたことに,司法の世界の規制緩和もあります。
また,財界も,弁護士の増員を要求し続けました。
そして,司法制度改革の中で,司法試験年間合格者数3000人という数字が打ち出されました。
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私が司法試験に合格したのは,平成3年でしたが,その年の司法試験の合格者数は,605人でした。ところがその後激増です。
司法試験合格者数の推移・総務省の資料から
平成20年移行は2000人突破です。
合格者数が増えて,本当は判事(裁判官)と検事(検察官)を増やさないといけないのですが,こちらの増員は大きなものではなく,弁護士大量増員となりました。
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その結果,司法修習を終えても就職できない人たちを生み出しました。
これまでは,弁護士事務所に一定年数勤務して独立するというパターンが多く,その勤務弁護士時代を,イソ弁と呼んでいました。
先輩の弁護士に学び,事件を先輩の弁護士の指導を受けて,実務ノウハウを覚えていったわけです。
ところが,「ノキ弁」という言葉,「即独」という言葉が当たり前に通用する時代になってきました。
「ノキ弁」とは,軒先を借りる弁護士の略です。その事務所と雇用関係になく,ただ,スペースや事務機器をお借りしているだけ。
「即独」というのは,司法修習を終えていきなり独立です。
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ちなみに,司法修習というのは,司法試験に合格した後で,まず司法研修所で勉強し,その後,全国に散らばって裁判所,検察庁,弁護士事務所で実務に触れ(実務研修),また司法研修所にもどって,最終試験を受けるというものです。
その司法修習の期間も,あれよあれよという間に短くなりました。
私は46期(平成4年開始)ですが,その当時は2年でした。
それが第53期(平成11年開始)からは1年半になり,第60期(平成18年開始)からは,旧司法試験合格者は1年半,ロースクールで勉強した新司法試験合格者は1年です。
前のグラフ司法試験合格者数の推移・総務省の資料から
のとおり,もうほとんど新司法試験合格者で司法修習期間は1年です。
ロースクールでびっちり勉強してるからってことなんでしょうか。もし,そういう理屈だとすると,私には,実務を甘くみているとしか思えないです。
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そして,司法修習を終えるにあたり,裁判官,検察官,弁護士になるには,司法研修所の試験に合格しなければいけません。これを司法修習生考試,いわゆる二回試験と言われるものです。
私が司法修習生のころ,この試験で不合格になる人は1人か2人でした。
合格して当たり前の試験で,よっぽどのトンデモか,かわいそうな大勘違いをしてしまった人じゃないと不合格にならないと言われていました。もちろん,勉強しましたよ。要件事実の勉強会とかやってましたし。
この二回試験の不合格者数も激増です。
司法修習生考試不合格者数の推移・総務省作成資料
平成13年から平成17年までは3人,1人,0人,5人,2人という状態。まあ,感覚的に私が司法修習生のころと同じ。
平成18年には16人。平成19年になってロースクール経由新司法試験合格者の時代になると,一気に147人に増えました。びっくりです。
このころ,私が尊敬する金沢の弁護士は,とても将来を憂えていました。そりゃそうですよ,この不合格者数は衝撃の数字だったのです。旧司法試験合格者組には。
平成20年は新旧合わせて146人,平成21年度は98人。
司法試験合格者数の激増と二回試験不合格者数の増大について,総務省が関連づけたグラフがあります。
司法修習生考試に合格できなかった者の推移(過去10期)
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弁護士大量増員の中,競争にたたき込まれる弁護士事務所は,いきのこりをかけて,債務整理・過払いでテレビにコマーシャルを流したり。トラが踊るんだっけ。
インターネットでも,弁護士のHPが一気に増えました。ちなみにこれも規制緩和です。昔は弁護士の広告は禁止されていました。
この広告ですが,ネット広告では,過払いの事件が減少する中で増えているのが交通事故と離婚です。
なんかね……
そりゃ,私も,人様のご不幸があってそれで仕事して食べてるんですけど……
医療と一緒で,病が無くならないなら,それに対応するものが充実するのはいいことです。
でも,競争激化の中で,露骨にメシのタネにするような雰囲気で押し出されると,なんか引いてしまいます。
例えば,高いテレビコマーシャルの費用はどうやってひねり出してるんだろう。
高価格低コスト?
大量薄利多売?
弁護士事務所の企業努力による素敵な結果?
まあ,きっと企業努力の素敵な結果でみんなHAPPYなんでしょう……と思いたい…かな。
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そんなこんなで,私は,このブログでは,法テラスの情報発信をしまくってるんですね。
ただ,全事件が法テラスの仕事になって今のやり方で仕事してたら事務所つぶれるかも(泣)。
事務所をつぶさないでってことになると数こなすしかなくなる。
たったかたったか右から左ってやつです。
粗雑司法になっちゃいますね。
大量薄利多売方針。
▲ご本人が納得してないのに調停合意を飲ませて一丁上がりとか……
▲その前にご本人丸めこんで前段階の離婚協議書で一丁あがりとか……
▲逆に,着手金欲しくて,本人の意向を無視して訴訟けしかけたりとか……
▲ご本人の話をろくすっぽ聞かないとか……
▲十分に説明してくれないとか……
▲打ち合わせ時間がやたら短いとか……
▲DVやストーカーの事件で,警察に一緒に行ってくれないとか……
▲親権とか面会交流とか,子どもがからむ問題はやりたがらないとか……。だって,双方引けませんから,調停から訴訟まで行って判決までと長引くし,実際,子どもが関係する紛争は,まじめに取り組めばいろんなことに気をつかわないといけない。
私,弁護士がそんなふうになってるとは思ってなくて,皆さん,頑張って誠実に対応されてるんだろうと思うんですよ……。
だって,私の周りにいる金沢弁護士会の皆さん,そんな方々ばかりだもん。
離婚の事件が好きっていうのは…好きというと語弊ありますけど…
基本,人間が好きで
人間のどろどろが好きで
そんなどろどろで苦しんでいる人が懸命に生きる姿が好きで
そんな人がどろどろから立ち上がって素敵になっていく姿が好きで
次世代を担う子どもが健やかに育ってほしいと願ってて
ってタイプかなと。
市場原理とかビジネスの世界で生きてないんですね。
だから,投下労働と利益のバランスという採算をまったく度外視したことも,時として,やっちゃったりする(笑)。時としてね……
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でもね,4月8日にアメブロ初めて,当事者の方々の記事を読みますと,弁護士に失望したという方の記事がそれなりに沢山ありまして……
そうなってるとは思いたくないけど……。
金沢の片田舎で生活してまして……
実際,首都圏の事情はよく分からない。
地方だと,弁護士の顔と名前が一致する世界ですから……
狭いということは,窮屈であるとともに,変なことはやれんというのがありまして
ですから,金沢弁護士会の弁護士の先生方のHPを見ると,上品なものが多いです。
何をもって上品と思うかは,ひとそれぞれですが。
だいたい,法テラスの紹介してますしね。
弁護士大量増員で競争激化の中で,離婚に思い悩む女性がねらい打ちされているという状況が仮にあるとしたら,それは,とっても悲しいことです。
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服を買うくらいなら,服代は出費だけど,失敗しやったで済むんです。
でも,一般庶民が弁護士に相談するってことは,そうないわけで,離婚とか相続とかそう何度もあったら困るものもあるわけで……
大量増員して,後は市場原理で,トンデモには撤退してもらおうなんて理屈が通用する世界ではないと思うんですけど。
市場原理が通用する世界と,そのままそれを通用させたら大変なことになる世界ってあると思うんですね。
宇沢弘文氏がおっしゃる社会的共通資本ってやつです。
第1類型:自然環境
山,森林,川,湖沼,湿地帯,海洋,水,土壌,大気など
第2類型:社会的インフラストラクチャー
道路,橋,鉄道,上・上水道,電力,ガスなど
第3類型:制度資本
教育,医療,金融,司法,文化など
宇沢弘文氏は,これらについては,
それぞれの社会的共通資本にかかわる
職業的専門家集団により,
専門的知見と職業的倫理観にもとづき
管理,運営されるべき
と言います。つまり,市場原理じゃだめですよってことです。
高速バス路線も,交通インフラでしょう。
関越道バス事故の報道を読んで,では,この司法のこれからは?と思ってしまった。
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