雨が窓を叩く音だけが響く夜。雅史はキッチンで温めたコーヒーを淹れていた。リビングのソファには匡が腰をかけており、ぼんやりと天井を見上げている。

「匡さん、どうぞ」
雅史は匡の隣に座り、優しくカップを差し出した。しかし、匡はそれを受け取らず、雅史の手に視線を落としたまま黙っていた。

「どうしました?」
雅史が気遣うように尋ねると、匡はふと顔を上げた。

「…なんか、今日、全部うまくいかなくてさ。」
いつもはクールな匡の声が、かすかに弱さを帯びている。雅史は驚きつつも微笑み、静かに寄り添った。

「そんな日もありますよ、匡さん。でも、私の前では無理しなくていいんですから。」
雅史の言葉に、匡は少し戸惑ったような表情を浮かべたが、次の瞬間、雅史の肩に匡は頭を預けた。

「…お前の顔見たら、どうでもよくなった。」
僅かながらでも珍しく甘える仕草と匡が呟く声が、雅史の胸に直接届くような気がした。

雅史は優しく匡の肩に手を伸ばし、指先でゆっくりと撫でる。
「それは光栄ですね。私はいつでも匡さんの味方ですから。」

「ふっ」
匡は鼻で笑ったが、それが妙に愛おしくて、雅史もくすりと笑った。

「たまには匡さんが甘えてくれるのもいいものですね。」
雅史は手を止めずに続ける。
「匡さん、これからも遠慮せず、もっと頼ってください。」

匡は何も言わずに目を閉じる。そのまま静かに呼吸が深くなり、やがて寝息が聞こえてきた。雅史はそんな匡の顔を眺めては、柔らかく微笑んだ。

「本当に無防備な人ですね、匡さん。でも、そんなあなたが私は好きですよ。」
雨音の中、二人だけの穏やかな時間が静かに流れていった。