中国政府の反論はすべてウソだった

新疆ウイグル自治区におけるウイグル人などイスラム教徒に対する人権弾圧や強制労働について、国際社会は中国に対して懸念を示し、批判を重ねてきた。しかし中国政府は、これについて国外の反体制勢力が作り出した誇張であり、住民の職業教育を目的にした「再教育プログラム」はすでに役割を果たして終了したほか、強制労働の実態はないと完全に否定してきた。

ところが、去年8月、新疆ウイグルで拘置所の監督や警察官を経験した漢族の中国人がドイツで政治亡命し、その証言から、中国政府の反論はすべてウソで、いまも強制収容所での過酷な収容が続き、綿花畑などで強制労働が大規模に行われている実態があることを、ドイツのシュピーゲル誌(DER SPIEGEL)が4月16日の報道で明らかにした。

<China: Polizist auf der Flucht – Vor Schloss Neuschwanstein setzte er sich ab, nun enthüllt er Pekings Verbrechen - DER SPIEGEL>

それによると、去年8月、観光ツアーの一行としてドイツを旅行中、バイエルンの世界遺産・ノイシュヴァンシュタイン城で、一行から離れた一人の中国人が、その後、ミュンヘンにある世界ウイグル会議の事務所を訪ね、亡命を申請した。彼のリュックサックの中にはノートパソコンが入っていて、そこには彼が、新疆ウイグルで勤務した9年間に入手した中国当局による公文書などウイグル人迫害の証拠資料を保存されていたという。

亡命者は新疆で9年間、看守や警察官を務める

彼の名前は張亜波(Zhang Yabo)。河南省出身で1986年10月15日生まれの39歳。2009年に新疆に転居し小学校教師となった。その後2014年から16年まで2年間は拘置所で看守を務め、ウイグル人収容者への日常的な暴行や拷問、尋問中に同僚が女性収容者をレイプする事件、虐待によって毎週、死者が出るといった拘置所内部の実態を目撃したという。

また2016年から7年間は、ホータン近郊の人口1700人ほどの村に警察官として配属され、そこでは住民の個人情報、交友関係、宗教活動、さらには血液データまで記録する任務に従事した。村のチャットグループで交わされるSNSの内容や、誰が病気になったか、誰が強制的な中国語教育に参加しなかったかといった情報も記録し、週ごとに上位機関へ報告していた。

張氏は「誰でもいつでも連行される可能性があった」といい、こうした「疑わしい人物」の連行される先が、2017年以降に始まった「職業能力教育訓練センター」、いわゆる「再教育キャンプ」という名の強制収容施設だった。警察官には「疑わしい人物」の報告にノルマが課せられ、達成すれば休暇が与えられる一方、不足すれば残業を強いられたという。張氏の推定では、管轄区域内の成人人口の約25%が再教育キャンプに収容されていたとする。

強制労働の現場で労働者の移送を監督

張氏は警察官は2023年9月に退職するが、この間の2018年から2020年にかけては、新疆の綿花畑で強制労働に従事する労働者の移送を監督する仕事に携わった。その労働者の移送は、完全武装の武装警察が護衛し、長い車列を連ねての移動は国家丸抱えの大がかりな作戦だったという。また、逃亡防止のための身分証明書の没収、1日10時間に及ぶ労働の強制、そしてお祈りなどあらゆる宗教的表現を厳禁したことなども証言した。

新疆で警察官などとして勤務した9年の間、張氏が継続して行ってきたことは、公文書や公的記録を集めることだった。彼が持ち出したノートパソコンには、そうした資料が大量に保存されていた。その中には2022年8月に発出された公式文書があり、それには「精神障害者」とする人物の選別とリスク評価を行うように指示があった。「未婚者」や「飲酒する者」「指示に従わないホームレス」などを「精神障害者」の対象にするという内容もあったという。

弾圧執行側の内部当事者として初の証言

新疆ウイグルに関連した内部文書の漏洩は、2021年9月、ロンドンで行われた「ウイグル民衆法廷」の公聴会に有罪証拠として提出された「新疆文書」(習近平の重要講話や新疆工作座談会の記録など党内の秘密文書)や、2022年5月、国連人権高等弁務官の新疆訪問を前にリークされた「新疆公安ファイル」(警察内部のネットワークがハッキングされて流出した収容者リストや顔写真、警察の取締りマニュアルなど)ほか、複数存在するが、今回の張亜波氏による証言は、名前と顔を公表した上での内部の当事者による初めての証言と公式記録であるという点で、その重要性が指摘されている。

米国のNPO「共産主義犠牲者記念財団」Victims of Communism Memorial Foundation(VOC)の上級研究員エイドリアン・ゼンツ博士(Dr.Adrian Zenz)は、張氏の証言について「新疆の治安システム内部から得られた証言として、これまでで最も具体的な運用実態を示すものの一つだ」と評価する。

大紀元4月17日「新疆の元警官が独で亡命 被拘束者が『毎週のように死亡』と証言」

しかし、そのために支払った代償も大きかった。2023年9月、張氏は「家庭と健康上の理由」で新疆での警察官の職を辞したあと、広東省広州市に移った。今回、欧州旅行に出発する前には妻と離婚し、旅行費用を賄うために家財を売却、出国許可を得るために当局に賄賂も支払ったという。ドイツで亡命申請したあと、中国国内の銀行口座は凍結され、父親は一時拘束され、友人も取り調べを受けた。母親は当局の圧力のもとで張氏に電話をかけてきて、帰国を懇願したが、その母親は投獄の脅しも受けているという。張氏は退職時に国家機密保持の誓約書に署名したが、「真実を語る」ために沈黙を破ったという。亡命と告発の理由について、張氏は自身がキリスト教徒であることを挙げ、洗礼証明書を提示した。

馬興瑞党書記統治下でも強制収容と強制労働は継続していた

ところで冒頭にも記したように、新疆ウイグルの強制収容所での迫害や強制労働などの人権抑圧に関する国際社会からの批判に対して、中国政府は一貫して強制収容や強制労働の事実を否定してきた。新疆ウイグル自治区政府の報道官は2021年1月の記者会見で、「職業能力教育訓練センター」は2019年10月をもって役割を終えたとし、「教育・訓練の学生は全て卒業した。現在、新疆に教育訓練センターは一つもない」と明言した。

共同通信2021/01/11「ウイグル族への『再教育』終了/中国・新疆の報道官が主張」

しかし、張氏の証言に従えば、警察官には2019年以降も依然として「疑わしい人物」や「精神障碍者」の摘発のノルマが課せられ、「再教育キャンプ」への強制収容が続いていたことになる。また、綿花畑での強制労働は少なくとも2020年時点では、いまだに大規模な労働者の移送が続いていた。

チベットで共産党書記を務め、強権支配で成功した陳全国が2016年8月、新疆ウイグル自治区の党書記に横滑りで就任して以降、新疆ウイグルでも警察による住民監視システムが強化され、住民の強制収容による再教育プログラムが始まった。そして2021年12月、その陳全国の後任として新疆の共産党書記に就任したのが馬興瑞だった。馬興瑞は深圳市の党書記や広東省省長などを歴任し、それ以前は中国航天科学技術集団のトップを務めるなど開明的なテクノクラートとみられていた。

そのため強権・強圧的な陳全国の新疆統治の手法とは違って、もっと穏やかな統治へ移行するのではないかという期待もあったが、張亜波氏の証言にもあるとおり、馬興瑞の統治の下でも強制収容や強制労働の政策は継続したのである。しかも馬興瑞の統治手法は、「強制的な体制を解体するのではなく、目に見える形で行われる拘束から、外部からははるかに探知しにくい、分散化され、常態化した強制へと弾圧の手法を転換させた」といわれる。

前述のVOCのゼンツ博士は「張氏の証言は、大規模な強制収容の停止が強制労働を終わらせたのではなく、強制労働を地下に潜らせ、国家の日常的な行政機構に組み込んだことを疑いの余地なく裏付けている」としている。

Victims of Communism Memorial Founddation Apr.16 2026 “Unprecedented Whistleblower Testimony from Inside China’s Police Apparatus Confirms Xinjiang Forced Labor Is Intensifying”

ウイグル人弾圧は巧妙に隠ぺいされ「監禁パイプライン」は残ったまま

また、世界ウイグル会議(WUC)はその声明で、元中国警察官の張氏の証言は、新疆ウイグルにおける弾圧が終結したのではなく、「再構築」(reengineered)されたことを示しているとし、「以前は目に見える形での大量拘束が中心だったが、その後、より隠蔽された手段へと移行した」とみている。WUCは張氏の証言を引用し、再教育キャンプから釈放された被拘禁者は直接刑務所に移送され、刑務所への「監禁パイプライン」(The 'Carceral Pipeline' to Prisons)が形成されていると指摘。つまり当局は既存の制度を解体するのではなく、むしろ再構築し、露骨な取り締まり戦術を縮小しつつ、拘留者数の上限を維持し、正規の刑務所の利用を拡大したとみている。そして張氏の推定では、管轄区域内の被拘禁者の半数以上が長期刑を言い渡されているという。

さらに強制労働に関しては、VOCによると2023年初頭から、当局はウイグル人住民の完全な服従を強制するため、国家による強制労働への参加を拒否した住民に対して過酷な条件下で最長15日間拘禁するという短期の恣意的取締りキャンペーンを開始したという。

また強制労働への労働者の移送件数は2025年に過去最高の340万件に達した一方、こうした強制労働による製品の輸出は、公式の税関データによると、馬興瑞氏の在任期間中、新疆から米国、カナダ、英国、欧州連合への直接輸出は465%急増したという。

VOCのゼンツ博士は「労働拒否がすぐさま拘禁につながるような社会システムでは、いかなる監視もセーフティーネットも無意味だ。企業やサプライチェーンの専門家は、新疆における労働環境は、国家による強制労働という体系的なリスクを伴うものとして扱うべきである」と述べている。

またVOCの会長兼CEOエリック・パターソン博士(Dr. Eric Patterson)は「これは過去の話ではなく、今まさに起きていることであり、世界のサプライチェーンに直接組み込まれている事態だ。VOCは、国際社会がこの危機に緊急性をもって行動するまで、こうした残虐行為を告発し続ける」としている。

同上Victims of Communism Memorial Founddation Apr.16 2026記事

世界はウイグルでの強制収容と強制労働から目を離してはいけない

ウイグル人に対する締め付けと人権弾圧を強行した陳全国は、2021年12月に党書記を解任され、翌年の第20回党大会で政治局委員も外されて引退した。米国から入国禁止などの制裁対象となった共産党幹部の一人だが、習近平の指示に忠実に従い、うまく新疆を管理統治したにも関わらず、その論功行賞にあずかることはできなかった。その後任の馬興瑞も2025年7月に突如として党書記を免職させられ、その後半年以上動向が伝えられなかったが、ことし4月3日、「重大な規律・法律違反の疑い」で中央規律検査委員会の調査を受けているという発表があり、政治局委員から失脚した。彼に汚職や腐敗があったとしたら、中国航天科技集団(CASC)のトップを務めていた頃にさかのぼり、中央軍事委員会副主席の張又侠の事件と同じように軍の装備品にかかわる不正があったのではないかと見られている。いずれにしても、陳全国も馬興瑞も、習近平からの厚い信頼と期待を受け、新疆政策の責任者という立場にたったが、自らの官僚人生を成功させることはできなかった。これは習近平の人事に問題があったのか、新疆政策そのものに問題があるのか、そのどちらかだろう。

張亜波氏の証言でも示されたように、新疆ウイグルでの人権弾圧、強制収容所の存在や強制労働は、いまだに継続している問題であり、事態は何ひとつ解決していない。新疆ウイグルには、現在も過酷な運命に晒され、不条理な仕打ちを受け、心身ともに苦しんでいる人々がいることを、世界は片時もわすれてはならないし、中国指導部に対して責任を追及する論陣を張り続ける必要がある。