こう見えて、剣道ならってたんすよ、自衛隊で。
小学生の頃。
その時、
「礼に始まり、礼に終わる」
と教わったっけ。
おや?夏はいつ始まり、いつ終わるのだろう?
・・・なんて、考えていた9月のある日、
僕達は森に、入った。
2日間森の中で、森と、自然と、地球と、
そして自分と向き合う為だ。
ありのままの、手付かずの森の中。
そこで僕は、ある老木と
運命の出逢いを迎えることになる。
→ → → → → → → →
森の入り口で友人と別れ、
僕らは思い思いの方向へ散って行った。
僕は卒業式を思い出しながら、
別々な道を歩んでいく友人たちを目で追い、
すぐにやめた。
そうだ、これからは自分の道を探すのだ。
時に獣道らしき筋は見えるが、
ただただ葉っぱと木々を踏み、
中には虫もいただろう。
全ては自然を踏みつけながら、
それでも森の中に分け入る。
道無き道を、黙々と進んでいる時、早くも気付く。
「自分の道を探す」なんてのは、違う。
自分の道を創るんだ。
歩くと、パキっと音がする。
渇いた枝を踏んだのだ。
—枝の踏み音で、侵入者の存在が明らかになる—
まるで、セコムの赤外線センサーのようだ、
と思いつつ、何者かの気配を感じた。
おっと、「気配を感じた」というのは、
いささか無礼な物言いだ。
こちらが侵入者である。
森の住民に敬意を払えば
「気配を感じさせてしまった」
が正しい。
何種類もの緑が交差する向こう側に、かすかに、
しかしハッキリとそれと分かるフォルムが見えた。
猪ファミリーだ!
やっぱり、森は野生の動物がいるんだねえ、
などと長閑な気持ちになったのは0.3秒。
すぐに恐怖が襲ってくる。
侵入者に対して、
攻撃を仕掛けてくるのではないか?
さらに僕は、侵入者と並び、もう一つの顔がある。
不審者でもあるのだ。。。
ほぼ無音で、薄暗い森の中では、
逃げようにも走れないし、隠れる場所もない。
幸いにして、猪ファミリーは
森の奥へと走り去っていった。
もし、ここが都市から遠い森で、
「入り口・出口」なんて概念もない程の密林なら。
もし、僕の周りに武器があったら、
——いや、むしろ武器を探すか作るか
していたかもしれないが——
かすかに見える森の住民を敵と認識し、
攻撃していたかもしれない。
やられる前にやるんだ、と宣いながら。
人は、恐怖に耐えられないのかもしれない。
そして、攻撃をしてしまう。
都市で行われた場合、それを「戦争」と呼ぶ。
すぐに、静寂に包まれる。僕は奥へと進んだ。
すると、鬱蒼(うっそう)とした森の中にあって、
そこだけスポットライトを浴びるがごとく、
ヒカリ輝いていた。
光を浴び、鮮やかな緑色が輝き、
周りには蝶が舞い、
そこはさながら森のステージのようだった。
僕は吸い寄せられるように、ステージへ向かった。
近くに行ってみると、ステージの主役である、
鮮やかな輝く木は、
朽ちていた。
僕には生きているように見えた。
輝いているように見えた。
しかし、老木は死んでいた。
僕は老木の隣に、腰を掛けた。
独り言のように話しかけてみると、
なんと返事があった。
僕)ジイさん、生きているのかい?
爺)生きてる?よう分からんが、時間はある。
僕)じゃあ、少しお話をしようよ。
爺)ああ、いいさ
僕)ジイさんの姿を遠くから見て、
会いたくなって、来ちゃったよ
爺)ふん、ニンゲンって奴は不思議じゃのう。
会いたいと思ったら、移動して来れるんじゃからのう
僕)ジイさん達は、会いたくなったらどうしてんの?
爺)会っとるよ
僕)でも、根を張ってるから、歩けないじゃないか
爺)ふぉっふぉっふぉ
ニンゲンは面白いこと言うのう。
お前らの「会う」は、目の前に来ることや、
触ることを言うのか
僕)そうだよ。じゃぁ、ジイさん達は何なんだい?
爺)ワシらはなあ、目の前に行かんでも、触らんでも、
繋がっとる
常に会話しとる
ほら、今、明るくなってきたろ?
あー気持ちがいい。
森のみんなも同じように喜んどるわい
僕)あ、太陽が顔を出したんだね。
僕も気持ちがいいよ
爺)そーか、ニンゲンも一緒か。
安心したぞ、仲間じゃのう。
それにしても、あれは太陽と言うのか?
僕)そうだよ!夜、キラキラ見えるのが「星」で、
丸く光ってるのが「月」だよ。
今、僕達は「地球」ってことろにいて、
クルクル回ってるんだよ!
爺)ほー、そうか。じゃが、名前を付けることに
何の意味があるんじゃ?
仕組みを知ることに何の意味があるんじゃ?
僕)それは、その方が分かりやすいし、
えーとそれから・・・
爺)ふぉーふぉっふぉ
ただ感じればいいんじゃよ。
素直に。
自分の思うままにな。
ただ、
そういうことだ
ワシらはなあ、さっき「繋がっとる」と
言ったじゃろ?
ワシらはみんな同じように感じとる。
明るくて、暖かければ、嬉しい。
風が吹いたら、気持ちがいい。
雨が降ったら、美味しい。
大きな風と雨が降れば、みんなで耐える。
必死にな。
そん時、死んじまう奴もいるけどな、
それも、嬉しい。
若い奴らの為になるからのう。
ワシらはニンゲンでいう「悲しい」という
気持ちは、ない。
全ては明日へ繋がることだからのう。
ニンゲン風に言えば「生きる喜び」かのう?
ふぉーふぉっふぉ
僕)ジイさんは、死ぬことに恐れはないの?
あ、もう死んでるか・・
爺)畏れか、か。おそれはワシにもある。
僕)え!あるの?
爺)そうさ、あるわい。
じゃがのう、ワシが死ぬことに対してではないぞ。
もっと、大きなものだ。うまくは言えんがのう。
ま、ニンゲンみたいに理由なんぞ考えんからのう。
ふぉーっふぉっふぉ
僕)それは、ジイさんだけでなく、
森のみんなもそうなの?
爺)さっき、ワシは、森のみんなが繋がっておると言ったじゃろ。
畏れもそうじゃ。
森のみんなも同じように持っとる。
僕)その恐れから、逃れようと思ったり、
恐れを無くそうとしたりしないの?
爺)ふぉーふぉっふぉ。
「無くす」なんてことがニンゲンには出来るのか?
凄い能力を持っているんじゃのう。
ワシらはなあ、畏れが悪いもんだとは考えとらん。
ただ、畏れが、そこにある。それだけじゃよ。
それにな、この森は、喜びと畏れによって
出来ているからな。
僕)喜びと恐れ?
爺)そうじゃ。ワシらは生きる為に必死じゃ。
必死に生きとるから喜びに溢れている。
しかしな、生きる為に何でもしていいかというと、
そうではない。
たとえばー、ほれ、あそこにこの森で一番の
高い木があるじゃろ。
じゃが、高いと言っても、
他の木たちとそれほどは変わらん。
自分だけが生きようと思ったら、
ドンドン大きくなって、
この森を覆い隠すほどデカくなって、
水も光も独り占めすることもできる。
じゃが、それはせんじゃろ。
誰が言った訳でもない。
それは、畏れがあるからじゃ。
僕)恐れ・・。
僕達は自分の恐れから、
相手をやっつけようとしているんだよ
爺)ふん、それは「畏れ」と「恐れ」を
履き違えておるのう。
自分の利益しか考えとらんから
「恐れ」しか出てこんのじゃ。
僕)うーん。じゃあ、ジイさんの考える
「生きる」と「死ぬ」はどう違うの?
爺)「生きる」とか「死ぬ」とか、
ニンゲンと出会う前は
考えたこともなかったわい。
確かにな、あそこの木は、
最近倒れちまって立ち上げってこねえ。
色も変わっちまった。
それを死んだと言うんだろう。
でも、隣を見てみろ。
小さな木が生えてんだろ。
大っきな木が横たわったから、
若え小さな木が伸びて来たんだ。
それにな、まぁワシらもそうじゃが、
身体にたくさんの仲間たちが
住み着いているじゃろ?
僕)うん。コケ、キノコ、蝶々、ダンゴムシ、
ハエ、お花、、、いっぱいだね!
爺)名前は時には便利じゃのう。ま、ええわい。
そこに、死と生の境は必要か?
爺)ワシらはなあ、個と全体という考え方が
無いんじゃ。
今、ワシが喋っているが、ワシの言葉ではない。
この森の言葉じゃ。
それがたまたま、ワシを通して
表に出ているだけじゃ。
僕)じゃ、ジイさんは選ばれた代表選手なんだね!
爺)ふぉーふぉっふぉ
まぁ、そういうことじゃが、
ワシはたまたま明るいところにいて、
コケ達が美しくしてくれて、
そこにお前が来てくれて、だからこうして、
ニンゲンと会話をしとる。
しかしなぁ、今、お前が喋っとる相手は、
ワシではない。
森じゃ。
お前は森と会話をしているのじゃ。
僕)じゃあ、この森に生えている木や草、
動物たちは、森の為に生きているの?
爺)森の為、ではない。それぞれが森じゃ。
僕)ジイさん、僕達は、
住んでいる地球を守りたいんだ!
どうすればいい?
爺)そうか、地球ってところに
ワシらもいるんじゃったのう。
ワシらは動けんから森じゃが、
お前らは動けてしまうから、
広くて大変じゃのう。
さっき言ったじゃろ、この森の奴らは、
喜びと畏れで生きておると。
それは決して考えて出て来たことではない。
自分の中に、ただ、あったのじゃ。
自分の中、というのは、ワシの中であって、
ワシの中ではない。
森の中、ということじゃ。
お前も、地球と繋がっていることじゃ。
そこで、素直に感じる。喜びと畏れ、
それが地球の言葉じゃ。
理屈など考えず、正直に、ただ、感じる。
自分に正直に生きることが、
地球を未来へと導くのじゃと思うのだが、
どうかのう?
僕)ジイさん、ありがとう!
喜びと畏れを素直に感じていくよ、約束するよ!
爺)ふぉーふぉっふぉ。約束、か。
ニンゲンはルールをつくるのが好きじゃのう。
まあ、いいわい。また、来いよ。