section1.
<紅夜と霞>
「「...俺、ホストやめる」」
自分の声がこだましたような刹那、
奈々の目からは大粒の涙がとめどなく流れ出した。
「わかってたよ..?いつかこんな日が来るんだろうなって」
奈々は、察していたのだ。あの日、新規客として俺の店にやって来た霞の存在に内心動揺していた俺のことも、俺がホストをやめる理由が紛れもなく霞の存在からだということも、全部______
「ごめん..」
「私は本当に紅夜が大好き。」
「うん、」
「だからね、ホスト辞めても応援...してるからね。」
必死に涙を拭いながら俺に笑いかける小さな身体は、思っていたよりもはるかに小さくて、奈々は"客"でも"金"でもなく普通に生きている女の子だと知った。
「奈々ちゃん、今までありがとう。
..元気でね。」
そう伝えて、最後までホストらしく振る舞い、俺は夜更けの街を後にした。
~紅夜と霞 ...続く~
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