夏真っ盛りと言ってもいい今の季節に、北国ならどこの地域でも抱える落雪問題を考えてみます。冬になってから考えても遅いですからね。夏のうちに準備が必要です。


 屋根からの落雪で毎年のようにニュースになるのは、除雪中に屋根からの落雪に巻き込まれ、雪に埋もれてお亡くなりになった方のことですとか、屋根の雪下ろしの最中に転落してお亡くなりになった方ですとか、色々あります。ですが、この記事で考えてみたいのは、お隣の家の屋根からの落雪による損害の問題です。お隣の屋根からの落雪で車庫が倒れたとか、壁にひびが入ったなどなど…、雪の問題は結構多いんですよね。


●民法218条


 民法218条にはこのようにあります。

「土地の所有者は、直接に雨水を隣地に注ぐ構造の屋根その他の工作物を設けてはならない。」


 土地の所有者さんは、原則として、自分の土地で何をどうしようと自由なはずです。しかし、お隣に迷惑になるような事はしてはいけませんよ!…というのが、民法209条から238条にある相隣関係という条文です。ご紹介した民法218条も、この相隣関係の中の1つなんですね。所有者だからと言って何でも好き勝手にしていいわけじゃない、お隣さんに迷惑にならないように、その所有権を制限しますよ!…ということです。

 この条文では「雨水」となっていますが、このような条文の趣旨を考えると、雪の場合にも当然に同じことが言えそうです。


 したがって、お隣の屋根からの落雪が直接に自分の土地に落ちてきている場合には、雪が落ちてこないような工事を求めたり、建物そのものの撤去を求めたりできそうですね。


●不法行為に基づく損害賠償請求


 民法の不法行為に関する条文はたくさんあります。


民法709条「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」


民法717条第1項「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。」


 加害者の故意または過失によって、加害行為が行われ、被害者の権利等損害が発生し、その加害行為と損害に因果関係があれば、民法709条による不法行為に基づく損害賠償請求は認められます。

 また、加害者の所有または占有する土地工作物があり、それが通常有すべき安全性を欠くもので、被害者の権利等損害が発生し、これに因果関係が認められれば、民法717条による不法行為に基づく損害賠償請求が認められます。

 屋根からの落雪が危険なものであることは、毎年冬になると必ず報道される悲しい事故のニュースを見ても明らかです。「通常有すべき安全性」について、裁判上どの程度のものが要求されるかは難しいところですが、お隣の屋根からの落雪による損害賠償請求をする場合には、民法717条を検討してみる価値は十分にあるでしょう。