むかーしむかし。


これは私が、バンドを始めた同級生に「お前もライブ、遊びに来いよ」って誘われて、初めて地元のライブハウスに繰り出した時の、極めて初々しいお話。




それまで好きなバンドのライブは見に行った事があったけれど、会館やホールみたいな 大きな所にしか行った事がなかった当時の私にとって、『ライブハウス』、というものは、それはそれは興味深くて、キラキラしていて、何だかちょっと怪しげで。

とにかく皆目検討もつかない場所だった。

地元って言っても家からは少し遠くて、自転車で精々40分。高校入りたてにできた軽音部の友達は、先に皆で待っているらしい。
バスか自転車で悩んだ末、私は とりあえず安牌なバスで向かう。


慣れないシチュエーションにちょっとドキドキしながら、待ち合わせていた友達と合流。薄らぼんやりとした知識で、ライブハウスにヒールはご法度らしいぞ!とスニーカーとスキニーで挑んだ私は、覚えたてケバケバメイクとおっしゃれ〜な服装の友達を見て軽く絶望する。



間違えた、私、絶対今日の感じ何か間違えた〜と内心焦りながら、いざ ライブハウスへ。


思っていたより暗くて狭い。
今日のライブハウスには、見知った顔の同級生が沢山来ているようだ。

とりあえずドリンクを貰って、最前列より少し後ろで待機。同じ軽音部の先輩の 何とかさんも出演するらしく、友達は皆キャッキャッしていた。あ〜だから皆、服もメイクも気合いが入ってたのか〜なんて自分の中で全ての合点がいく。


とりあえず適当に話を合わせながら、楽しみだね〜なんて言って、ライブが始まる。


1番手だったらしい私の同級生は、ステージに上がるや否や、溌剌とコピーバンドを披露していた。
ライブハウスの音のデカさにとりあえずビビる。
知ってる曲だったから合いの手なんかを入れつつ、全力でやってる同級生に凄いなぁとか、かっこいいなぁ、とか ちょっと羨ましいなんて思っていた。


そんなこんなでオープニングアクトの彼らの出番がすぐに終わる。

申し訳ないけど、その後見た先輩のバンドを含む他の出演者の事は正直全く覚えておらず、飽きてきた私は21時にはライブハウスを出ようと心に決めていた。(マジでごめんなさい)

だって、バスの時間過ぎたら嫌だったし。
周りの友達は皆自転車だったし。
先輩のバンドはイケイケ過ぎて内心、私はちょっと恐かったし。笑


次のバンドを少しだけ見たら MC辺りで帰ろう、くらいの 軽い気持ちで何となく待機。トリ前らしいあのバンドが登場。

こちらも正直、殆ど覚えてないのだけど、何曲目からか私は夢中になっていた。
その日初めて見た名前も知らないバンドだったし、勿論曲も知らない。でもその場にいた皆がコールアンドレスポンスで、一緒に盛り上がっていた。
楽しくて楽しくて、非日常的な光景に、これがライブハウスなんだと思った。
すぐに帰るつもりだった私は、バスの時間も忘れ、ギリギリまでフロアで見ていた。
流石に21時半を回った所で「やばい、帰れなくなる!!!」と 我に帰り、そのバンドが終わると同時に 後ろ髪を引かれる思いで、ライブハウスを脱出。
その日トリのバンドは結局見れなかったので、やっぱり自転車で来れば良かった〜なんて後悔しながら、早歩きでバス停に向かう。


帰り道のバスに1人揺られながら、「物販に立ち寄る」という制度も私は知らず、ただただ自分の中に残ったライブハウスの光景と、慣れない音量に戸惑った耳に違和感を覚えながら、遅くなった帰りを母に連絡し 余韻に浸っていた。





そして、あれから7年。
あの日ライブハウスで見たあのバンドの事なんか、私はとっっっくに忘れて、気が付くとライブハウスで自分が歌を歌っている。

高校を卒業するまでの過程で、あのバンドがいつの間にか解散しただとか何だとか、一度耳にするも、バンド名すらあやふやだったので 正直聞き流す程度だった。本っ当に、ごめんなさい。(笑)


ただ何故か近頃、不意に思い出したあのバンドの、あの曲の、あのワンフレーズが、ひたすらに気になってたまらなくなる病に私は見舞われる。

何が凄いって、バンド名もあやふやで、メンバーの顔もいで立ちも、何もかも全然覚えていないのに、7年経った今でもあの日聞いたあの曲のワンフレーズが、1ミリも私の中で消えていないこと。

 
いや嘘、やっぱり0.5ミリくらいは既に消えている。笑
 


ただ、自分が音楽をやる側の人間になったからこそ、それは物凄い事だと思ったし、まだどこかであの人達が音楽を続けているのなら、知らず知らずのうちに 自分がバンドをやっている過程で、再開していたかもしれない と、ふと考えたからだ。


あやふやに覚えているバンド名のワードと、ワンフレーズだけ覚えている歌詞でああでもない、こうでもないと検索をかける。
一向にヒットしないし、音楽性も編成も ジャンルも 何もかもが違う全く別のバンドが出てきた。

あの日行ったライブハウスの昔の出演者・昔のスケジュールを漁れど、全く見つからない。


やっぱりこれだけのキーワードじゃ難しいか〜なんて思いながら、私は暇になれば不意に思い出して検索をかける。
そんなある日、何となく思い出したバンド名の全貌を検索してみたところ、すぐにヒット。


「これだっっ!!!!!」


めちゃくちゃにテンションが上がる。
やはりずっと前に解散していたらしいそのバンドのHPは既に死んでいたが、幸いにもTwitterやYouTube、残されたルートを発見。



ワクワクしながらYouTubeに上がっていたライブ映像を再生する。必死に記憶を手繰り寄せ、覚えていた曲目ではなかったが、ボーカルの歌声を聴いて、このバンドだったと確信。やっと思い出した嬉しさと、7年越しに再開できた喜びを噛み締める。
が、それはそう長くは続かなかった。



そう、とても失礼な話なんだけど、全っ然かっこよくなかったの………………。ごめんなさい…………(笑)
 
思っていたよりも荒削りで、勢い任せなあつーい感じのライブだった。


あれ?あれれれ??
あの日私が後ろ髪を引かれる思いでライブハウスを出て、めちゃくちゃかっこいいバンドがいたんだ!!と目をキラキラ輝かせて帰宅後お姉ちゃんに熱弁したあのバンド、こんな感じだったけ???

何だか少しショックで、Twitterを漁るもとっくにアカウントは化石。意気消沈。

1番聴きたかった推しの楽曲はどこにも配信されておらず、CDもとっくの昔に販売終了。


そりゃ7年も経てば可笑しくない話だわな〜と思いつつ、何となく抱いていた淡い憧れとか、キラキラした思い出と、少しだけ切ない虚無感だけが私の中に残る。
当たり前だけど、あの時CD買っときゃ良かった〜なんて ベタな後悔と共に。


そしていつの間にやら、私はバンドに対して求める物が少しだけ、肥えてしまったらしい事にも気付かされる…………。





まあそれはさて置き、笑
このお話は、あのバンドに対するdisでも悪口でもなくて、やっぱりこんだけの年数が経過しても、耳に残っている楽曲があったこと、それが凄まじく強い。と思う、私なりのリスペクトだ。

初めてライブハウスという場所に足を踏み入れた、あの日の記憶を思い出す度に、多分あのバンドのライブは私の中で永遠に自動再生される。
それって私にとっても、あのバンドにとっても、物凄くエモーショナルな産物だよねぇ。


張本人の彼らこそ、今現在バンドを続けているのかも、そもそも音楽を続けているのかも、全く分からないけど……。
もしまだこの世界に誰か一人でも残っているのなら 、気付かぬうちにばったり会ってたりするんだろうなぁ〜なんて思っている。
それが分かってハッとした暁には、あの曲のワンフレーズを未だに忘れられない事の重大さを、私は声を大にして何とかして伝えたい。(笑)



今日はそんな、何となく思い出した昔の話。