平成四年八月の歌



星空ゆふされば いよよ膨らむ月下美人 初花うれしと掌にし つつみつ






夜の街漆黒の闇をひらきて満々と 白花さきぬただにい寝がたく






三日月湿りたる夜半(よわ)に来鳴きてひっそりと ふくろう鳴きぬ「これ喰てどうしよう」






星空ホッホッと鎮まる夜半に 二、三声 鳴き立ちゆきし闇いよよ深く






演劇身を撚(よ)りていざなひゆけるカルメンや ドンホセの禿髪に吾とまどひぬ

※歌劇カルメンのドンホセの演者が禿げていた事を詠む







平成四年八月


※転載禁止




温泉一人居はまこと良きかなホテルの湯 たっぷり浴びつつ節うち伸ばす






星空昨夜(よんべ)泊まりし人の跡なき部屋なれど 闇の戸あげつ灯(あかり)夜っぴて






ヒヨコ起きぬけつ踏む那珂川の草づつみ 愛しき鶺鴒(せきれい)に密(ひそ)とつづかむ






雨テールランプを追ひてし行けば今離(あか)る 君を泣くごと繁(しげ)吹く夕雨







メモ眉あげつ無心に記事を取りましし 若葉の君や京へ去りゆき








平成四年五月


※転載禁止
水戸はよき



ブーケ2桜まひたきみ山うま畑瑞々し 水戸の丘辺に深く息吸ふ







チューリップピンクよりかかり群立ち暗む寒竹の 撓(たわ)む間すきて青き丘見ゆ







クローバー霞むごとく咲きたらむ花散り果てて 梅の若葉に埋(うず)む偕楽園






ハチ縦横にユンボはうなる殿も愛でし 見晴らしの屋の裾の山野に






お酒外海の鯛・越乃寒梅といま 争ひしことも忘れつ










平成四年五月


※転載禁止
雨上(かみ)に向け白波登る渦まきつ 下りつ登る菜種梅雨の川





霧増水の揖保の川辺に漁(すなど)れる 鷺は首延べ直に動かず






ヒヨコ川低く行く鶺鴒(せきれい)や岩に憩ひ 気流に乗りて夕焼けに消ゆ







雪の結晶好雪片々とある軸賜ひし吾が床(とこ)に 雪柳の小さき花散らしゆく






星空うなだれつ机撫(な)づるを置きて来し その一こまの夜にありありと





平成四年四月二十二日


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山も覗く




ブーケ2囲みたる山も覗(のぞ)くや谷桜 はりつめ咲けり茶会待つがに






お茶キリキリと袴(はかま)まとひつ若芝の 上に茶筅(ちゃせん)をサラサラ振りつ







クローバー青く動くはバッタの幼(おさな) パッとたち 野立ての席の仲間とやなり






ブーケ2花たもと並む毛氈(もうせん)に春風と 来し初虻(あぶ)や桜干菓子に






チューリップピンク土筆(つくし)菓子一つを食(は)みつほろ苦き 愁ひしほしほ懐紙につつむ





平成四年四月二十二日



※転載禁止