そして恋が降ってきた【前編】

<第五十九章>強くて哀しいひと

 

 

『トモコさんは、強い人だ。』

タカヒトは、彼女をまぶしく見ながら思った。

 

シングルで、子どもを育て

母親も看取っている。

 

トオルを捨てたわけではなく、

彼を想っての選択だったことは、彼女の話を聞いて理解できた。

 

健太くんも、良い子に育っているし、

彼女の選択肢は決して間違っては居ない、と思う。

 

なのに、

当時のトオルの気持ちを想像すると

タカヒトの胸は潰れそうだった。

 

“もし、自分が同じ立場でひろこを身ごもらせたら。”

 

生まれる子どもと、愛する人から引き離されては

生きていく意味は無いと思うだろう。

 

何よりひろこに会えなくなるのは

切なすぎた。

 

「ねえ、トモコさん。」

タカヒトは口を開いた。

 

「トオルはトモコさんの事を、

ずっと心のどこかで想ってますよ。」

 

「!?」

彼女が動揺した。

 

「そんな別れ方をしたら、思い出も

キレイなまま取っておけないですよね。

あなたは本当の事を言わずに、ヤツの前から姿を消すことで

あいつに自分の存在を刻み付けたんですよ。」

 

トモコの顔がゆがむ。

 

彼は言いすぎたと思ったが、

今更引き返せなかった。

 

「その愛し方は間違ってます。」

 

二度と彼女には、同じ事を繰り返して欲しくない。

タカヒトにしては珍しく、

心を鬼にしていた。

 

 

 

 

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