いばら姫LOVE AGAIN 

<第十章>もう少し、あと少し

 

 

翌朝目覚めると、

窓辺の花も、ラインのメッセージも

夢ではなくて、現実だった。

 

ため息が出る。

 

とりあえず内藤君には

『気にしてないから。』と一言と、

ふざけたスタンプを返した。

 

あくまで悪いジョークで治めてもらう

つもりだった。

 

 

雅はなんだかとても、

コーヒーの彼に会いたくなって

中庭に下りると、彼が居るのが見えた。

 

こんな朝から居るなんて、

彼も入院してるの?と

雅は思う。

 

気付かれていないようなので、

売店でホームランバーを2本買うと、

そっと彼の背後に忍び寄り、

頬にアイスを押し当てた。

 

「!?」

彼の、椅子から飛び出さんばかりのリアクションに

雅は大笑いする。

 

彼は少し照れたような、

ムッとしたような顔をしていた。

「これ。」

と、アイスを差し出すと

不思議そうな顔で彼女を見た。

 

「この間のコーヒーのお礼に。」

雅がそう言うと、

「ありがとう。」

と言って受け取る。

 

「あの・・・あなたもここに入院してるの?」

彼女は、彼の隣でアイスを食べながら聞いた。

 

一瞬沈黙が生まれたあと

「違うよ。」

と彼は言った。

「家族が、入院してるんだ。」

 

「へえ。」

「この間まで、意識もなかったんだけど

ようやく回復してね。」

「それは良かったですね。」

雅は笑顔で言った。

 

さぞかし心配だったろうと思うと、

その心労は察することができる。

 

「良かったんだけど、ね。」

と彼は暗い目をした。

 

「何か、あったんですか?」

「・・・・彼女は、俺の事だけ忘れてしまったんだ。」

悲しそうだった。

 

「他は日常生活に、支障をきたさない程度に覚えているのに。」

 

「そうだったんですね。」

それでいつも、無口で寂しそうだったのか。

陰のある表情の意味が、分かった。

「彼女があなたを思い出してくれるといいですね。」

 

雅がそう言うなり、

彼は突然彼女を抱きしめた。

 

 

 

 

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