灼熱☆バケーション【後編】

〈第二十九章〉 甘い接吻

 

 

タカヒトとひろこは二人で、浴槽につかっている。

タカヒトは何も言えず

ひろこを見つめていた。

 

夢の中で指輪を返された時、

彼はショックで、どうしていいか分からなかった。

出来心で浮気をする男は

この現実を、どうやって処理しているのだろう?

 

“二度と彼女の信頼を取り戻せない。”

そんな事はイヤだと思った。

 

「どうしたの?そんなに思いつめた顔をして。」

ひろこに聞かれ、

タカヒトはゆっくりと口を開いた。

 

「ひろこさんは、俺が浮気したらどうする?」

 

「うーん。どうするかな?」

彼女が考え込んだ。

「浮気って、どこからが浮気?」

逆に彼女が聞いてくる。

 

「身体の関係になろうとしたところ、かな?」

タカヒトが言う。

「キスは?」

「それだけで終わるなら、カウントしない。

でもそれ以上に進む気なら、浮気かなあ?」

 

「・・・・そう。」

ひろこは考え込んだ。

 

「なら、たとえ話だけど

私と中野君はお互いに元サヤに戻る気は無いけど、

一時の気の迷いでキスをしました。

もちろんそれ以上進む気はありません。

っていう話だったら、どうする?」

 

ちょっと考え込む。

「・・・・やっぱりキスも、ダメかも。」

タカヒトは憮然としていった。

そこで終わるとはっきり分かっても、

想像すると、許せない。

 

心が狭いと思うけど、嫌なものはイヤだった。

 

「その時にならないと、分からないよね?気持ちなんて。」

見透かされたようにひろこに言われ、

タカヒトはドキッとした。

 

「私も中野君に浮気されて辛かったけど

彼がよそを見るのと、自分に自信が持てないのは

別問題だって分かったから、

前ほどは傷つかないと思うよ。」

 

「なるほど。」

「だからって、浮気していいって

訳じゃないからね。」

 

ひろこがニヤリと笑って言った。

いたずらっぽい表情だ。

「タカヒトが浮気したら、寝てる隙に刺しちゃおうかな~

中野君の時には、しなかったけど。」

笑いながら、物騒な事を言う。

 

だけどタカヒトはそう言われて少し、嬉しかった。

黙って去られるのは、あまりにも辛い。

彼はひろこをぎゅっと抱きしめた。

 

「タカヒト。」

真顔の彼女を見ると緊張する。

 

「私、もうタカヒトが居ないと

生きていけないんだから、責任取ってよね。」

 

そう言われてにっこりと笑われると、

彼は降参するしかなかった。

 

「一生、責任取り続けます。」

 

タカヒトはひろこにキスをした。

 

付き合い始めてから今までで

一番の甘いキスだった。

 

 

 

次灼熱☆バケーション【後編】〈第三十章〉 へ