ギュンター・ヴァントという指揮者をご存知の方の多いかと思います。私は名前だけは知っていてもその音楽には余り関心を持っていませんでした。

この人は９０歳を超えた辺りから突然のように注目されたんじゃなかったですかね。特にブルックナー・ファンからの注目度が高かった。私はそのブルックナーの何かを聴いてそれほど感銘を受けなかったのでそのままになっていました。

丁度シューベルトの「グレート」が聴きたくて、ヴァントのものが目に止まったので”あんまり面白くなかったら途中でやめてもいいし”という軽い気持ちで聴き始めた所です。

ベルリン・フィルとのライブ録音。

冒頭のホルンの落ち着いたというか凛とした響きを聴いた瞬間、”あっ、この人只者じゃないな”と感じました。

その後もあのベルリン・フィルがこの指揮者に完全にコントロールされていきます。この落ち着き払った雰囲気はそうそう出せるものではありません。

ヴァントは身長２メートルはあろうかという長身で、ちょっと曲がった背中を持つ見た目はもうヨボヨボのお爺さんで、体つきも病的に細身という”これでよく指揮ができるものだ”と感じさせる弱々しささえ感じますが、その眼光の鋭いことは際立っています。ちょっとムラヴィンスキーを思わせます。

この録音は１９９５年のライブですが、その後１９９６年からいくつかのブルックナーがこのコンビで録音されていきます。その口火となったこのライブの成功がその後のブルックナーに繋がったんじゃ無いかと推測できます。

第２楽章のどんどん沈み込んでいく様子など圧倒されてしまいます。こんな第２楽章、初めてじゃないでしょうか。

リズミカルな第３楽章の流れの良さも抜群で、この辺りからヴァントの指揮にも珍しく力が入っていく感じが伝わってきますが、その造形を乱すことなくヴァントの目はあくまでも冷静です。

ベームが演奏で最も重要なのは”造形”と言っていますが、ヴァントも同じ考えなのでしょう。

第４楽章はシューベルトの書いた最良の音楽の一つです。歌謡性と交響曲らしい高揚が見事に合致した奇跡のような音楽。

ヴァントの目は最後まで冷徹にオーケストラをコントロールし切ります。ここはライブなんだからもうちょっとサービスしてもいいじゃないかと思ったりもしますが、これがヴァントなんでしょう。

オーケストラの指揮者に対する尊敬が伝わってくる演奏でした。

ヴァントのブルックナーも聴き直してみたくなりました。

第１楽章を聴いてみて下さい。

マイ・CDコレクション（４９）〜ギュンター・ヴァントという指揮者のこと